藤沢周平 「義民が駆ける」 講談社文庫
正月休み、東京に持っていった手持ちの本を読み尽くして、手持ち無沙汰で買った本。
山形庄内藩を襲った領地取り替えの幕命を、藩上層部、農民が死力を尽くした政治的活動で覆した天保義民、或いは天保一揆と呼ばれる顛末を題材にしたもの。ノンフィクションかと思うほど丹念な史実に裏付けられている。
もともと藤沢周平という作家は、下級武士の気骨、義を描いて余すところがないが、これは少し趣が違う。
将軍を含む幕府上層部の思惑、庄内藩江戸藩邸、藩の中枢部、農民各層の動きが、国替え推進派(或いは肯定派)と反対派に分かれ様々な動きを始める。幕藩体制の維持のために一旦決めた命令を守ろうとする幕府中枢は時を稼ぎ、既定事実化する戦略を取る。それに対し反対派は・・・。
政治的駆け引き、読み合い、余波を最小限に止めようという動き、が各層に出てくる。それぞれが立場を意識しながら、思うところを実現しようとする行動がうまく描かれ、信憑性を増す。
そういう意味では単純な勧善懲悪的物語ではなく、味わい深いものになっている。
この本を読んで現在の社会での政治へのかかわり合いを考えさせられた。歴史小説はこうありたいものだ。