遅いことは猫でもやる

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じっくりと味わう本

2012-05-22 06:54:39 | 


「ながい坂」山本周五郎 新潮文庫

義兄が薦めて貸してくれた本。久々に生き方について深く考えさせられる本に出会った。

主人公は若いころ身分の上の家から理不尽な目に合わされ、一念発起をして文武両道に励む。下級武士が次第に這い上がってゆくさまを描いたものだが、華々しい立身出世物語ではない。主人公は剣術も一門の人物であるが、胸のすくような立ち回りがあるわけでもない。
人生とは重い荷を背負いながい坂を上るが如し、といった家康の言葉を体現している。

大言壮語するのではなく、目の前の課題を着実に解決してゆく姿勢を藩主に見出される。志は勿論あるが、自分の運命を大きく変えようと言うようなものではなく、下級武士の惨めさ、不合理さに抗うというほどの志である。現実の人生もこんなところではないかと思わせる著者の筆致である。女性との関わり方はいかにもと感じさせ、著者の不得意な分野ではないかと思われる。不自然にもてすぎであり、都合良く運びすぎに見える。また、色事の描写も何やらぎこちない。

しかし主人公の成長過程はなるほどと思わせ、葛藤や孤独に苦しむさまは共感が持てる。次第に視野が広く、相手の気持や立場が理解できるようになってくるのは自然だ。血沸き肉踊る華々しい筋書きではないが、諄々と胸の中に入ってくる。三河の人間には理解しやすい生き方のように思える。

こんな不況下でも若者の転職が目立つという。志と違ったりややりがいを感じないのが原因だそうだが、周五郎に聞かせたら「習うより慣れろ」と云われそうな気がする。久々に人の生き方について考えさせられる本に出会った。