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重厚で骨太なな展開力と描写力

2012-04-18 19:10:01 | 


山崎豊子「運命の人」文藝春秋社刊

少し前の出版だが、山崎豊子の作品だということで、読んでみた。
「華麗なる一族」で銀行、「不毛地帯」では商社、「沈まぬ太陽」では御巣鷹山墜落事件に絡むJAL、「大地の子」では残留中国人孤児、といろいろな分野の人物を描いてきた著者が、今度は「西山事件」を題材として報道の自由について考えさせる。

この時代(佐藤政権末期)では、毎日新聞は3大新聞のなかではトップで、大いに日本の政治に影響力をもっていた。読売はまだ3番手で(渡邉恒雄らしき人間も小説に登場するが)、政治的な動きでのし上がってきたようだ。
この小説は新聞社どうしの取材合戦を描いているのではなく、西山太吉記者がすっぱ抜いた、日米政府の沖縄返還にまつわる裏取引、密約を否定しようと政権中枢が圧力をかけ、男女関係のモラルにすり替えた状況を描写する。

国家権力が一新聞記者に対し、強大な権力を使って司法に圧力をかけ、一審無罪を控訴審で有罪にひっくり返す様子を、あの筆力で展開する。
あの事件が、報道の自由の限界、意味を問うことが本筋であるのにもかかわらず、記者と事務官の情事でモラルの問題に低められた、権力側の奸計にしてやられたのだ。先日の尖閣事件のビデオ公表事件では違法を立件できずに、海上保安庁の職員は、不起訴となったが、この件もそんな扱いが相当だったような気がする。しかしその主因を佐藤栄作の権力欲、名誉欲(当時ノーベル平和賞の候補にあげられていた)だと、権力の側のおぞましさをさらっと描いている。
尖閣事件でも、仙石官房長官は同じような動きをしかけたが、すんでのところで踏みとどまった。日本も少しは成長したのだろうか。

小説なので、主人公やその奥さんは出来た人物として描かれているが,TV画面で見る限りは、もう少し下世話な人物のように見える。
それと、山崎豊子はよく盗作騒ぎを引き起こす。この大作家がそんな事をしなくてもいいのにと少し不思議に思う。

しかし小説自体は、いつも読んでいる時代物とは違う、読み応えのある小説であった。