上京した折、浅草演芸ホール、新宿末廣亭と並ぶ上野鈴本を覗いた。かねてその名は聞き及んでいたのだが、場所と名前からして、いかにも下町の寄席だろうと想像して、向かった。
ところが・・・。表通りに面したビルの一角、切符売り場もガラス張り、エスカレーターで3階まで上がる。末広亭より近代的な佇まいでその分情緒はない。
そのせいか、演目も漫才、マジック、ジャグリングなどの色物は少なく、あるにはあるが、もっぱら落語である。私は落語好きなのでこれはいい。ただ出演者の芸は達者だと思うが何やら治まり返っている。バカバカしさというか、活気というかが少ないように感じた
。トリは文楽だった。さすがに落ち着いていて渋い芸だ。お客は浅草、新宿とそんなに変わらないと思うが、やはり旅行者が多いのか、反応も通り一遍だ。
柳家小三治の「ま・く・ら」を読んだせいか、あんまり行儀の良い落語もなにか物足りない。ちょっと馬鹿馬鹿しいくらいが丁度良く感じる。それでいくと、浅草の木馬館、東洋館などが、出演者の必死さが出ていて、共感が持てる。ついでに言うと、他の寄席は確か入れ替えなしの興行だが、ここは昼席と夜席で完全入れ替え制だそうだ。このあたりも近代的である。
とはいえ、これで主な寄席を制覇した気分で、気持よく帰途についた。