mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

一転、雪国の春

2020-01-30 09:22:28 | 日記
 
 奥日光に行ってきました。一昨日(1/28)の出発時は、雨。日光宇都宮道路に入ってしばらくすると霙。いろは坂にかかるころには雪になっていた。積雪もあり、除雪車が前を走っている。関東平地の雨がこちらでは雪になっていたようだ。明知平のトンネルを抜けると、明らかに積雪が多くなる。それでも路面の雪は車に踏まれてぐずぐずになっている。赤沼トイレの前の駐車場には9時20分に着いた。出発してから2時間20分。ほぼいつもどおりの順調な行程だった。
 
 kwmさんたちもすぐ後に着いた。3時間かかったらしい。あとで聞いて驚いたが、kwmさんは雪の中を走るのは、ほぼ初めて。平地の少しばかりの積雪はチェーンを巻いていたというから、スノータイヤでは心配だったかもしれない。
 今日のコースを打合せ、1台を光徳に置き、全員で湯元の出発点に向かう。荷を下ろし、車を湯元の駐車場におきにいって、歩いて出発点に戻る。やはり雪が少ないのか、道路から林道へあがるところの石垣が剥き出しになって見えている。
 10時半、歩き始める。林道上の雪は湿っぽく、厚みがある。このルートを今日歩くのは、私たちが最初らしい。今日の踏み跡はなく、昨日か一昨日の踏み跡が凹んでいる。先頭を行くkwrさんは、ゆっくりしたペースで深い雪のなかへすすむ。枝に雪を乗せて大きく垂れ下がったヒノキが前を塞ぐ。ときどき、kwrさんの方が触れて雪を落とす。どちらを向いても、静か。呼気が周りの雪景色に吸い込まれていくような面持ちになる。雪が降り積もる。
 
 先頭を交代する。テンかキツネかシカの足跡が右側の斜面から降りてきて、左側の斜面へ下り降りている。シカのそれは、腹のところが削ったように凹んでいるから、すぐにそれと分かる。50分ほどで、光徳から湯元へのむかし道の峠にかかる。標識はすでになく、ただ光徳へのルートを塞ぐように木の板をつるしたロープが張り渡してある。なにか書いてあったのかもしれないが、文字らしきものが読み取れない。でも、ここだと、私の記憶がつぶやいている。
 
 kwrさんを先頭に森へ踏み込む。雪が多いと枝が低く道を塞ぐように見える。どちらへ行こうかとときどき立ち止まってルートを探す。雪道はこれが楽しい。急な斜面にぶつかる。そこを登って、先頭を交代しましょうと声をかける。一足掛けると、ずるりと滑り落ちる。爪先を雪面にたてて押し下げるようにしてやっと少しばかり体を上へ持ち上げる。一歩一歩、こうして上へ登る。
 急斜面の上で先頭をkwmさんが交代する。彼女はすこぶる目がいい。木に巻いた赤いテープを見つける。木々のあいだをくぐり、どんどん先へ進む。swdさんとの間が空く。すっかり木々に囲まれてしまった。赤テープはもう見えない。
 後にいた私は、右の方へ登ってみる。先が見えるところへ来ると、やはり左へ巻いた方がよさそうに見える。木につかまり、トラバースを試みる。少し広い谷間に出て、見たことがあるという記憶が戻ってくる。そうだ、このルートの正面にある倒木が面倒だから、ここで右へあがって回り込んだと、刻んだ「覚え」が甦る。kwmさんが後ろについている。
 
 やはり彼女が赤テープを見つけ、ついでkwrさんが赤テープを指さして、「その先にあるよ」という。そちらへ行きながら私は、三つ岳の西峰の稜線と東の稜線とが出会うあたりの凹みを気に留めている。もう少し左へ寄って、そこから凹みへ向かうと、たぶん、三つ岳の峠に出くわすはず。立ちはだかる針葉樹を避けて、明るい落葉広葉樹の斜面へ上る。このルートの峠部分の一番高い地点にある倒木が何本か横たわるのが目に入る。ここだ、ここだと、やはり私の記憶がつぶやいている。ちょうど12時。お昼にする。
 
 雪を交えた風が三つ岳の山頂側から吹き、それに背を向けてサンドイッチを口にする。暖かいココアを淹れて身体を温める。甘みを加えたカフェオレもおいしい。飲み物がなければとてもサンドイッチが喉を通らない。歳をとって嚥下力が衰えてきたのだろうか。目の下の斜面に広がる木の葉の落ちた明るい広葉樹林がふっくらとした雪に包まれて、私たちの辿ってきた履み跡だけがトレースを残している。いいなあと胸中がつぶやく。
 
 昼を終え、峠越えに移る。先頭をkwmさんがすすむ。この人たちは、ここが初めてではない。だが、冬にしか歩けないこのルートは、雪のつもり具合で気配が変わるから、いつ来ても初体験のような面白さが味わえる。先頭をときどき変わって、ルートファインディングの楽しさを感じてもらう。斜面のトラバースを難なく歩く。何十メートルか先の目標物を話して先へ行ってもらう。倒木の上に積もった雪が膨れ上がって、前方を塞いでいるように見える。だが回り込むと、前方が開ける。こうして峠越えの最後の地点が下にみえるところに着く。先頭にいたswdさんが、どこを降りていいか迷っている。目の前の急斜面を下ればいいのだが、彼女のストックが半分に折れたようになって、使えないことがわかる。私が先導して右の方へトラバースする。左の急斜面をkwrさんが滑るようにバランスを取って下る。kwmさんが後に続く。
 
 いつもならこの地点から正面に男体山がみえるのだが、雪が視界を遮っている。kwrさんも、ここには来たことがあると思い出したようだ。急斜面の雪を削るように踏みつけて大きく降っていく。倒木があり、右へ左へ通りやすいルートを探りながら下る。いつのまにかkwmさんが先頭を歩いている。swdさんはストックを諦め、私のストックを一つ使って、バランスを取る。こうして標高差300mほどを学習院の寮を目指して下っていった。
 
 学習院の寮は水源を利用して池を作っており、その先に小さなスキー場がある。うっかりスキー場へ踏み込もうものなら、管理人が出てきて「ここへ入って来ちゃ困るんだよ」と怒鳴られる。上部を回り込んで光徳へ向かうときに学習院寮への道に踏み込むと、「誰が除雪していると思ってるんだ」と居丈高に叱られたこともある。今年そのような気配がないのは、管理人が世代交代したのだろうか。
 池に張った金網の上を回ってスキー場を回避する。ここもかつてのスキー場のようではなくなった。もう使われなくなったのだろうか。宮家の人たちもお茶の水の付属へ行ったようだからと話しながら、光徳へ下ってゆく。
 
 光徳の駐車場に着いたのは13時50分。今日の行動時間は3時間20分。冬としては、まずまずの動きであった。車に乗り、湯元へ向かう。湯元の車を回収して宿泊先にいく。15時からのチェックインにはだいぶ時間があるが仕方がない、と考えていたらすぐ手に手続きをして、14時半には部屋に案内してくれた。部屋も風呂もリニューアルしたとかで、ちょっと小ぎれい。
 部屋の窓から雪をたっぷりとたたえた庭とその向こうの湯ノ湖がみえ、木立の間の遠方には男体山の影が見える。窓際の椅子に座ると、山なんかどうでもいい、ここでこうしてのんびり本でも読んでいられたら、それだけでもいいかなと思う。
 ふと、そう思って、そうか、ぼちぼちそういうことを本気で考える歳になったのかなとkwrさんと話す。毎年ここで、スノーシューの山の会をしているが、歩かなくても、こうして皆で寄り集まって過ごすのもいいかもしれない。
 
 部屋の暖房は暖かすぎるほど。kwrさんはテキパキと手袋や帽子、雨具などを広げて乾かす。私は着替えをもって風呂に向かう。風呂も、どこが変わったのかわからないが、広々としてこざっぱりしている。露天風呂も改修したといっていたが、何が変わったのかわからない。でも、湯温もよく小雪が舞う外は頭が冷えて心地よい。
 風呂を済ませたkwrさがビールを買ってきてくれる。まずはビールというので、良かったねえ、今日のコースは、と話ながらビールを飲む。私が持ち込みの生ワインをあけたのは、kwmさんがやってきてから。彼女は(きっとこっちの方がいいんじゃない)と私のことを気遣って、信州ワインの白を持ってきてくれている。生ワインは、「こりゃあ、ジュースだよ」とkwrさんがいう通り、口当たりは良いが甘い。信州ワインの方が、甘さがほどよく淡泊で、飲みやすい。そのうちswdさんもビールをもってやってきて、いろんな話をしながらプチ宴会をやる。
 
 夕飯を済ませ、7時半ころにkwrさんは床に就く。一寝入りしてからまた風呂に行ってこようと考えて横になった私は、いつしか眠り込んでしまい、目が覚めてトイレに行ったのは、朝の6時。なんと10時間ほども熟睡してしまった。それほどにつかれていたのだろうか。ま、眠れないよりはましというから、気にすることはないが、それにしても体を休めるというのに、こんなに時間がかかるようになった。
 
 朝風呂に行き、寒そうだったから露天には出なかったが、やはり風呂から戻ってきたkwrさんが、「雨だね」という。小粒の雨が、蕭蕭とふっているそうだ。これじゃあ、今日の雪山歩きはやめだねと話す。朝食に行っていると、雨が霙になり、雪に変わる気配。う~ん、どうしよう。
 「それよりは、もう一度風呂に入るわ」というswdさんの声に、出発を10時ころにする。私も朝食を済ませて、もう一度風呂に向かう。風呂掃除のおじいさんがやってきて、「いえ、まだいいですよ」といって、引き返す。
 チェックアウトをしたとき、しかし、雨は上がり、暖かくなった気温に木の上の雪が解けて、ぽたぽたぽたと大粒の雨のように水が落ちている。これじゃあ雨と同じだねと思う。kwrさんも「もうオレ、武装解除しちゃったよ」といって、雪山に踏み込む気持ちがない。まあそうか、こんなふうに腰が引けるのも、年相応でいいのかもしれない。kwmさんたちに別れを告げ、浦和へ向かった。こうして奥日光の下見は終わった。
 
 帰途、どんどん気温が上がるのがわかる。ヒーターを止める。車の屋根上の雪がいろは坂を曲がるごとにどんどんと音をたてて滑り落ちる。助手席のswdさんの話を聞いているうちに、宇都宮道路を過ぎ、東北道へ入る。ふと気づくと利根川を渡り、羽生のSAを過ぎる。アッと気づいたら、ガソリンがあと少ししかない。蓮田SAでいれようと考えていたのに、お喋りしていたらそこも通り過ぎてしまった。仕方がない。持ち応えるかどうか。ピンと音がして、ガソリンがあとわずかという印が点灯したのは、浦和インターを出るところ。これなら何とか持ちそうだ。
 まるで、雪国の春に行ってきたような下見であった。

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