mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

田植えをみる

2024-05-18 08:57:44 | 日記
 見沼田圃の自然保護地マルコに車を置いて見沼自然公園まで散歩に出かけた。五月晴れ。陽ざしは強い。微風が少しひんやりと感じられ心地よい。見沼用水路東縁の東側にある高台地へ入る。樹木の養生地の緑が広がる。花が目に止まる。カメラに収め、家へ帰ってから師匠に尋ねる。最初に出会ったのはシャリンバイ。白い花が溢れかえるほど葉を押しのけて迫り出している。その先に家の庭にはカルミア(アメリカシャクナゲ)が、満開の花を開いている。師匠は雄しべが花びらに付いているでしょうという。撮った写真のその部分をズームしてみると、ほほう、なるほど、花笠のように開いた花びらの一枚一枚に雄しべがくっ付いている。そこから離れて立っているのが雌蕊だそうだ。開く前の蕾は、中はふくらんでいるが先端は閉じた傘のようにつつましい。地面にはヒナゲシのような煉瓦色の花が勢いよく咲いている。ナガミノヒナゲシという帰化植物だそうだ。
 鷲神社が赤い鳥居を結界にしてひっそりと佇む。よく見慣れている神社なのだが、背にする青い空が違うのだろうか、鳥居の奥の正殿に向かう参道の踏み石にさす樹木の影がひときわ奥ゆかしさを湛えているように見える。なんだろう。
 鳥居脇の石碑が目に止まった。彫りが浅いのか、それとも経た年月が彫りを削ったのか、文字は読みにくい。傍らに立てた標識「鷲神社拝殿囲垣改築記念碑」がその文言を説明している。記念碑は明治42年に建立された。碑文の和歌は「氏子等がまことにめでて/御こころをあわせて神や/いや守るらん」と詠われている、と。
 これまで何度もここを通ったのに、この石碑のことを意識に止めたことはなかった。へえ、どうしてと思う。と、説明文の末尾に「令和6年3月」とある。なんだ、二月前ではないか。そうか、読めない石碑に目を留めなかったが、説明文に心引かれたってことか。
 何となく佇まいが違って感じられたのは、私の錯覚ではない。神社そのものがその身を改めて調えた。それが、どことなくワタシに響いてきたってコト。そういえば、いつであったか、この神社の改修をしている宮大工さんを見た覚えがある。このブログにも記したのではないか。そう思って調べてみたら、あった。2021-3-20の「連綿と受け継がれる佇まい」に、触れている。そうか、ひょっとすると一人の宮大工がコツコツと拝殿の修理回収を行い、屋根を葺き替え、やっとそれが終了して、碑文の説明標識をつくったってことのようだ。新しい標識の横には、前々からこの地域と神社に伝わる獅子舞のことが書いてある。鳥居から中へ入る。気配が何となく厳かに感じられる。「何事のおわしますかはしらねども・・・」という言葉が浮かんでくる。
 拝殿の正面の引き戸に色鮮やかなポスターが貼ってある。
「南部領辻の獅子舞」と大書して、その脇に「華麗で激しく 勇壮な舞」と言葉を添え、獅子の舞う絵とこの神社の概略地図が描かれ、「五月十二日午前十一時」と開催日時が記されている。そうか、もう終わったんだ。コロナもあって中止されていた獅子舞が、社殿の改修とあわせてお披露目されたってことのよう。良かったねと、社殿に拝礼した。
 見沼自然公園の手前で、黄色い帽子を被った子どもたちの群れを見掛けた。60~70人はいようか。どこかの幼稚園の行事がこれから始まるところのようだ。おっ、子どもたちは靴を脱いで靴下だけになっている。しばらくみていると、「おはようございます」と先生らしい方が挨拶を始め、一斉に「おはよう~ございま~す」と返事が返ってくる。声が合唱のように色合いの異なる響きを一つにして、水を張った田上を滑るのが、カワイイ。「今日、ここで田植えを教えてくださる**さんです」と、多の持主らしい年寄りを紹介しはじめた。
「何を植えるのかな?」
「いね~!」「こめ~!」「なえ~!」「**~!」とてんでに口をついて反応がある。
 こちらは土手の上から見下ろすような位置にいる。そこを軽自動車がすり抜けて、子どもたちの方へ降りてゆく。先生たちが子どもたちを道の片側に寄せて自動車を通す。荷台に沢山の苗が積まれている。
 彼らを置いて、私は自然公園へ向かう。陽ざしは強く、木陰の色が濃い。犬の散歩をしている方、樹陰のベンチに腰掛けてお喋りをしている老人たち、芝生の上に広いシートを敷き、ディレクターズチェアを脇に置いて、座って本を読んでいる男の人。いつもの小さい子どもを連れた母親はいない。
 私も木陰の石の椅子に腰掛けて、水を飲み、本を開く。その本のことは、後に書こう。しばらく本を読み、またぶらぶらと木陰を伝って自然公園の池をまわり、子どもたちの田植えをしている脇に出る。子どもたちは一列に並び、すでに何列か植えている。子どもたちと向かい合った田圃の畔にスピーカーをもった先生が声をかけている。
「はい、二歩一斉に下がりますよ。はい、いっ~ぽ。はい、にい~ほ」
 6,70人一列の子どもたちは後ろを見ながら、掛け声にあわせてい~っぽ、にい~ほと下がる。転ぶ子はいない。
「なえがなくなったひとは、おとなりからわけてもらってくださいね」
「はい、てでしょろしょろしましょう」
「は~い、うえま~す」
 一斉に子どもたちの身体が屈み込み、黄色い帽子が動く。カエルが鳴いている。隣の萱原からはオオヨシキリの声が聞こえてくる。
 泥田に入るのが苦手なのか、靴を履いた一人の子の手を引いて、先生が畦道を歩いてくる。
「こんにちは」
「ごくろうさま。大変ですね。子どもたちはうれしそうですね」
「はい、ありがとうございます」
 いつもの自然公園とは違う散歩になった。