自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆今ある能登の未来

2014年10月05日 | ⇒トピック往来
  先月9月27日、金沢大学が能登2市2町と連携して展開している、若者の人材養成プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」の修了式(修了生23名)があった=写真=。このプログラムは2007年にスタートし、7年間で延べ107名のマイスターを輩出している。能登里山里海マイスター育成プログラムは、自治体と大学が共同で出資する独自の予算で運営され、輪島市の「里山里海塾」、能登町の「ふるさと未来塾」とも連携するという、これまでにない地域と大学の密接なネットワークを築いている。授業内容も、従来の環境に配慮した農林水産業をベースとした地域活性化だけではなく、全国各地の先進的な動きや事例に学ぶなど新たな時代のニーズを取り込んだカリキュラムに工夫されている。

  1年間に凝縮されたカリキュラムで、受講生たちは月2回の土曜日、能登学舎(珠洲市三崎町小泊)でこれからの能登の里山里海をどのように活かしてゆくべきかについて、多彩な講師陣の指導を受けながら、熱心に議論を積み重ねてきた。その間、様々な戸惑いや悩みもあった。受講生たちは、それを乗り越え、自らの課題研究をまとめ上げて、審査と評価を得て、この日の修了式を迎えた。

  卒業の課題研究の概要をいくつか紹介する。東京から移住して、七尾市の能登島でまったく新しいタイプの農家レストランを起業する女性の受講生は、地元の農家との交わりや農作業をとおして、食材とメニューを開発するなど地産地消を徹底することから生まれるレストランの経営のプランをつくりあげた。この論文に「日本版スローライフ、スローフード」の可能性を感じた。また、能登の海で獲れるトラフグやゴマフグを「能登ふぐ」としてブランド化して売り出すビジネスプランや、能登の豊かな自然を幼児教育の場として生かす「森のようちえん」の開設に向けた取り組みなど、実に興味深い。

  修了生の代表はこう感謝の言葉を述べた。「能登は過疎化・高齢化といわれますが、ここにはたくさんの個性的な人が息づき、自然の豊かな恵みをうけて、ともに命を輝かせて生きています。これから未来のために何ができるのでしょうか。みんなで取り組んでいきましょう。能登がもっと元気になって、能登がもっと多様性にあふれることを願って、私たちは、考えながら、感じながら、動きながら、歩んでいきたいと思います」

  新たな視点、独創的な発想、先進的な取り組みなど、人々の考えの「多様性」こそ地域社会を切り開く源(みなもと)だと思う。「能登里山里海マイスター」の称号は伊達ではない。個人の取り組みが点であるかもしれないが、マイスターのネットワークを通じて線になり、さらに地域的な広がりを持って面となることを期待したい。その意味で、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みは能登半島に新しい息吹を吹き込む仕組みであると、修了式に臨んで改めて感銘を受けた。

  金沢大学はキャンパスの中だけでなく、能登、加賀、金沢の地域に学ぶ教育や研究を進めている。それは、地域の学びのニーズに応えていくことだと考える。修了生(マイスター)には、地域と大学を結ぶ懸け橋として、後に続く若者達のリーダーになってほしいと期待してる。能登にとっても、大学にとっても、能登里山里海マイスター育成プログラムを修了した若者たちはある意味での「財産」であり、この修了式の光景こそ、今ある能登の未来だと頼もしく思った。

⇒5日(日)午後・金沢の天気      あめ

  

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