自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「言葉は生き物」 時代の感性や鮮度

2020年07月20日 | ⇒ドキュメント回廊

   2020年も折り返し地点を過ぎて、これにまで使ってこなかった言葉が気が付けば日常を覆っている。「パンデミック」「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」「東京アラート」「線状降水帯」など。金沢大学では教養科目として「ジャーナリズム論」を担当していて、学生たちには「言葉は生き物である」と教えている。

   たとえば、テレビなどで盛んに使われ流行した言葉の中には、一過性で死語になるものもあれば、その言葉の意味に普遍性が見出されて辞書に載るものもある。そして、時代が変われば言葉も劇的に変化する。江戸から明治に時代が転換し、西洋文明が押し寄せた。福沢諭吉はeconomyを「経済」、money ordersを「為替」と訳した。この「為替」の言葉がなければ、当時、海外から文化を輸入する文明開化は広がらなかったかもしれない。言葉は時代を動かす原動力にもなる。

   3年前、新書『実装的ブログ論―日常的価値観を言語化する』(幻冬舎ルネッサンス新書、2017)を上梓した。この本を出版した動機の一つとして、学生や若者たちに言葉を自在に操ってブログを書いてほしいという思いがあった。

   著書のタイトルにもある「日常的価値観の言語化」はごく簡単に言えば、自ら日頃考えていること、感じたことを言葉として表現すること。言葉に皮膚感覚や、明確な事実関係の構成がなければ伝わらない。実際に見聞きしたこと、肌で感じたこと、地域での暮らしの感覚、日頃自ら学んだことというのは揺るがないものだ。それらは日常で得た自らの価値観だ。その価値観を持って、思うこと、考えることを自分の言葉で組み立てることが「実装」である。学生たちにはブログなどを手段として自らの言葉を磨いていほしいと思う。

   ジャーナリズム論について深い考察で会話が弾む学生がいて、「なるほど。そこまで考えているのか」と共感することがある。ただ、人前での発表やディスカッションの場に誘うと、急に言葉がトーンダウンする。「人前で偉そうなことはいいたくない」「目立ちたくないから」と言い訳する。男子学生に多いのだが、これも今どきの若者気質ではある。

   そのような学生にはテレビ局や新聞社への就活を薦めている。言葉の深さはメディアへの関心度とも相伴する。エントリーシートの書き方から始め、面接のリハーサルを本人が納得するまで重ねる。受け答えの言葉のタイミングと表現、抑揚など、言葉を鍛えることで本人のモチベーションが高まり、感性も磨かれる。10数年で出版社含めメディア関係に35人が就職した。

   取材で金沢に立ち寄った彼らから声がかかり、一献傾けることがある。久しぶりに交わす彼らの言葉に時代の感性や鮮度を感じる。この上ない喜びでもある。

(※写真は、ラファエロ作「アテナイの学堂」。ギリシャの有名な賢人たちを描いている=2006年1月、サンピエトロ大聖堂で撮影)

⇒20日(月)夜・金沢の天気    くもり


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