自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「パラダイス鎖国」

2008年10月12日 | ⇒トピック往来

 「パラダイス鎖国」という言葉を初めて聞いた。10月10日夜、能登空港4F講義室で開かれた金沢大学「地域づくり支援講座」で、ゲストスピーカーの金子洋三氏(元JICA青年海外協力隊事務局長、社団法人「青年海外協力協会」会長)が使った言葉だ。「青年海外協力隊のボランティアに応募する若者が減っている。パラダイス鎖国という言葉がありますが、日本に安住して、外に向かって何か挑戦しようという意識が薄れているのかもしれない」と述べた。

  もともとは、ことし3月に出版された「パラダイス鎖国  忘れられた大国・日本」 (海部美知、アスキー新書)のタイトルから引用された言葉だ。ことし1月のダボス会議で、「Japan: A Forgotten Power?(日本は忘れられた大国なのか)」というセッションが開かれ、国際的に日本の内向き志向が論議になったという。高度経済成長から貿易摩擦の時代を経て、日本はいつの間にか、世界から見て存在感のない国になってしまっている。その背景には、安全や便利さ、そしてモノの豊かさ日本は欧米以上になり、外国へのあこがれも昔ほど持たなくなったことがある。明治以来の欧米に追いつけ追い越せのコンプレックスは抜け切ったともいえる。ハングリー精神とかチャレンジ精神という言葉は死語になりつつあり、リスクを取らないことが美徳であるかのような社会の風潮だ。これでは人は育たず、社会も会社も停滞する。

  古代ローマ帝国が滅亡もしたのもこうした社会の活気が減退したのが原因といわれていいる。ローマ市民や、ローマに奉仕した属州民の特権であったローマ市民権を属州のすべての人々に無条件に与えたことで、ローマ市民権の価値が下落して、地中海最強とうたわれたローマの重装歩兵のアイデンティティ(自負心に根ざしたローマ防衛の意志)も拡散してしまった。また、ローマ市民としての歴史性と自尊心を持つ兵士の数が減少したことにより、ローマ軍の質的な低下を招いた。さらに、ローマ市民内部に固定的な経済階層が生まれたことで、経済の活力や市民の上昇志向は衰退したといわれる。

  パラダイス鎖国が産業面で蔓延したらどうなるのか。ブロードバンドのインフラで世界に先行しているにもかかわらず、ITの新興勢力となる企業はどこにいるのか見えない。高品質、高性能、先進的というジャパン・ブランドは確かに健在であるものの、売れているのは日本だけで、海外では押されているのではないか。ソーラー発電のパネルなどかついてはお家芸といわわれた分野がいまではワン・オブ・ゼムではないのか。このままでは日本はいずれパラダイスですらなくなる。※写真は古代ローマ帝国のコロセウム

 ⇒12日(日)夜・金沢の天気    くもり


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