自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★報道被害

2014年08月06日 | ⇒メディア時評
  金沢大学の共通教育授業で「マスメディアと現代を読み解く」の科目を担当している。課題リポートで「あなたがジャーナリストになったとして、インタビューしたい人物を一人あげてください。そして、あなたが何故その人物を選んだのか、理由を簡潔に書いたうえで、その趣旨に沿うような相手への質問3点をあげてください」と設問した。

  リポートを提出した200人の学生がインタビューしたい相手として選ばれたトップは小保方晴子さん(「STAP細胞」研究者)。24人の学生が選んだ。主な質問は「STAP細胞の再検証実験により、STAP細胞の存在を証明する自信はありますか」というものだった。2番目に多かったのが、安倍晋三・総理大臣の23人。主な質問は「集団的自衛権の行使を憲法改正ではなく憲法解釈により容認した理由は」。3番目がサッカー選手の本田圭祐氏。主な質問は「優勝を目標に掲げて挑んだ今回のW杯の結果についての感想は」というものだった。学生のインタビューの相手は時代の世相を反映している。ちなみに、あの泣きの野々村竜太郎・元兵庫県議には8人の学生がインタビューを望んだ。

  2010年12月の課題リポートでも同じように、インタビューしたい相手を書いてもらった。4年前である。この時は188人の学生から回答を得た。1位が野球選手のイチローだった。主な質問は「どうしたらプレッシャーに打ち勝つことができますか」「セコイという質問にどう答えますか」だった。このセコイというのは外国人の眼で、内野安打を確実に稼いでいくイチローの野球に対して、ホームランの一発を期待する海外のファンの見立てをそのまま質問にしたのだろう。冒頭の課題リポートは7月下旬に提出してもらった。その後、予期せぬことが起きた。

  NHKスペシャル「STAP細胞不正の深層」(7月27日放送)の事前取材(同月23日)で、小保方氏を追いかけ、全治2週間のケガを負わせたと報道された。さらに、放送の9日後の8月5日朝、小保方氏の研究指導の中心メンバーだった理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長、笹井芳樹氏(52)が自殺した。NHK番組は、笹井氏が小保方氏の実験の不備を把握していたのに、それを怠ったのではないかとする内容の、責任追及もしていた。また、笹井氏と小保方氏の2人が交わしたメールの文章を読む声がなんともに2人の「特別な関係」の雰囲気を与える印象だった。

  NHKスペシャルの取材班としては、どうしても小保方氏のインタビュー(肉声)を撮りたかったのだろう。そして、ホテルに駆け込んだ小保方氏を逃がすまいと記者・カメラマンを含め4、5人で囲んだのだろうことは想像に難くない。事件を報道した新聞・テレビのニュースを読み比べると、「そこまで追い詰める必要はあったのか」との論調が多い。小保方氏にとっては、ケガをしたのだから「報道被害」ではある。今、学生たちに同じインタビューをしたい相手は誰かと尋ねれば、おそらく「NHKスペシャルのプロデューサー」だろう。その質問の趣旨は「そこまで小保方さんを追い詰め、どんなインタビューの返事を期待したのか」ではないだろうか。

⇒6日(水)夜・金沢の天気  くもり

  


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