自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

2021年02月11日 | ⇒メディア時評

   まるで不祥事のデパ-ト、そんな印象を抱いた。このブログでも何度か事例を引用しているBPO(放送倫理・番組向上機構)の公式ホーページをチェックすると、フジテレビの案件が目白押しになっている=写真=。BPOは、放送の言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を守るため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応するNHKと民放による独自の組織だ。

   BPOがトップで掲載している項目は、フジテレビが実施した世論調査で架空の回答が入力され、報道番組で伝えていた問題が結審したとの内容だ。フジは2019年5月から2020年5月まで14回にわたり実施した世論調査で、調査会社の社員が電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていた。調査を委託した会社が再委託した、いわゆる「孫請け」の会社だった。問題の発覚を受け、同局は架空の調査をもとに報じたニュース(18回分)を取り消した。この問題を審議してきた放送倫理検証委員会はきのう10日に結審した。

   意見書によると、NHKと民放が定めた放送倫理基本綱領などに照らし合わせ、「世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたり報じたもので、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない」として、この件は重大な放送倫理違反に当たると判断した。SNSを主舞台とする、いわゆる「ネット世論」が拡大するなど、多種多様な情報が錯綜している。世論調査の信頼性を確保するためには「世論調査の外部への発注から納品、データの分析、ニュース原稿作成に至るプロセスは、それ自体が取材活動であり、担当者にはジャーナリストとしての目線が欠かせない」と述べ、調査の現場に行く、数字をチェックする、緊張感のある対応を求めている。

   同じく放送倫理違反があったと結論づけられた審議案件。同局のクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は、100人の参加者から選ばれた解答者1人が、残る99人を相手にクイズで競う番組コンセプト。だが、参加者が不足した際、エキストラを出演させて補い、クイズへの解答もさせていなかった。コンセプトを逸脱した状態は2018年7月から1年余り続き、告発を受けて2020年4月に同局は番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪していた。放送倫理検証委員会の審議はことし1月18日に結審した。

   意見書によると、番組制作にあたってプロデューサーが6人配置されていたにもかかわらず、お互いが「見合う」カタチになっていて、エキストラによる補充の常態化に警鐘を鳴らすスタッフがいなかった。欠員は想定外でなく想定内として番組制作の数日前にエキストラの補充を手配業者に発注していた。「視聴者との約束を裏切るものであった」と放送倫理違反を結論づけている。

   3つ目が、女子プロレスラーの自死が問題となったリアリティ番組『テラスハウス』(放送:2020年5月19日未明)についての審理だ。問題となったシーンは、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントで批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。フジの番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっていた。ところが、フジは5月19日未明の放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てた。

   放送人権委員会はことし1月19日までに3回の審理を重ねている。これまでの関係者のヒアリングで、母親はSNS上で誹謗中傷が集中したあと娘が自傷行為を行ったことは、「SOSを出していたのであり、フジテレビが適切に対応していれば娘が命を落とすことはなかった」などと訴えた。また、女子プロレスラーの知人は当時の様子について、女性とのやり取りから制作スタッフに不信を抱いていたようだと感じたなどと述べた。一方、フジテレビ側は、社内調査を行った結果から、番組に過剰な演出はなく女性を暴力的に描いたことはないとして主張した。

   審理が始まって新たな展開があった。警視庁は12月17日、女子プロレスラーを中傷する投稿をSNSで行ったとして、侮辱容疑で大阪府の20代の男を書類送検した。ツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿し繰り返し、公の場で侮辱した疑い(2020年12月17日付・時事通信Web版)。

   フジに限らず、番組の不祥事は制作スタッフの緩みやスキを突いて出てくる。放送倫理と人権問題として放送する側が問われる。緊張感を持って制作しなければ、番組は立たない。

⇒11日(祝)午後・金沢の天気     はれ    


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