自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★漢方薬は消滅するのか

2018年04月08日 | ⇒ドキュメント回廊
   金沢で開催された日本薬学会第138年会に合わせて市民講演会(3月25日)が開かれた。講演会のタイトルが衝撃的だった。「漢方薬 消滅の危機と国産化の試み」。「消滅の危機って、一体なんだ」、そんな思いで出かけた。

   漢方薬に造詣が深いわけでもなんでもない。ただ、漢方薬と言えば、その原料が植物や鉱物など天然物に由来する生薬から構成される医薬品ということぐらいは知っている。知り合いの研究者からはこんな話を聞いた。漢方薬の理論は古代中国の影響を受けていて、その原料の生薬には中国からの輸入品が多く含まれている。中国産は安価で供給量があるため、日本で生産可能な生薬ですら中国産に依存するようになっている。日本の医療に使用される生薬の実に8割は中国産、国産は1割でしかない。輸入が途絶えると日本の漢方薬の7割以上が消滅するとまで言われている。

   本来ならば国産化は急務なのだが、それがなかなか進まない。何がネックになっているのか、それが知りたかった。また、個人的にも若干の興味はあった。私の金沢住まいは旧町名が「地黄煎町(じおうせんまち)」だった。江戸時代から、ここでは漢方薬の地黄を煎じて飴状にして売られていた。飴といっても現代のいわゆる飴ではなく、地黄を圧搾して汁を絞り出し、湯の上で半減するまで煎じ詰める。滓(かす)を絞り去り、さらに水分を蒸発させ堅飴のようにして仕上げる。堅く固まるのでノミで削って食べたと親たちから聞いたことがある。滋養強壮や夏バテに効果があったようだ。ただ、高度成長とともに宅地化が進み、地黄煎町の町名も50年前に変更になった。近所にある「地黄八幡神社」=写真=という社名から当時の地域の生業(なりわい)をしのぶのみだ。

   話を市民講演会に戻す。金沢大学の佐々木陽平准教授(薬学系)は「漢方処方『四物湯(しもつとう)』の原料生薬を石川県で」と題して講演。江戸時代に金沢で薬草栽培が盛んだった事例として、「地黄煎町」を紹介した。しかし、それは過去のことで、4種類の生薬から構成される漢方薬「四物湯」の中で一番自給率が低いのは地黄でわずか0.6%にすぎない。自給率の低さの理由は経済的な問題、つまり、国内産よりも海外産が安価だからだ。。

その背景は製薬会社が儲けに入ってるからという意味合いではない。保険診療制の中では漢方薬原料生薬の薬価(医療品公定価格)が決まっていて、国内の生産コストが薬価を上回る場合だってある。こうなると製薬会社は安価な輸入品に頼らざるを得なくなるのだ。野菜の場合は生産コストに利益を上乗せできるが、薬草の場合は頭が決まっている分、それ相当のコスト削減策を講じなければ栽培経営は難しいようだ。佐々木氏は「この問題を解決するために、生薬に付加価値をつけることや非薬用部として未利用であった部分を有効活用するなど、生産者の採算面を考慮する必要がある」と訴えた。
 
  「身土不二」という言葉がある。その土地で育った人にとって、その土地で生産されたものが最良で、安全、安心という意味合いもある。生薬で身土不二を実現するのはそう簡単ではない。地黄煎町でなぜ地黄が栽培されなくなったのか、考えさせられた。

⇒8日(日)夜・金沢の天気   くもり       

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