著作権ビジネスを手玉に取った「おいしい」手口だとこの記事を読んだ人は思ったのではないだろうか。NHKニュースWeb版(12月22日付)によると、東京・渋谷区の音響会社に勤めていた男性が日本テレビの朝のニュース番組の音響効果を担当し、自身が創作した楽曲を平成27年(2015)から2年余りの間、番組で合計1900回余り放送したと虚偽申請をし、JASRAC(日本音楽著作権協会)から7400万円余りを不正に受け取っていた。男性は自らの楽曲の著作権管理をJASRACに委託契約していた。
どうして男性がいとも簡単に大金を手にできたのか、JASRACとテレビ局の著作権契約の内容を調べてみる。JASRACは民放とNHKから年間で260億円余りの著作権料を徴収している。両社の契約は2015年当時、放送事業収入の1.5%を著作権料として支払うことで局側は楽曲が使い放題という包括契約をJASRACと結んでいた。JASRACにとっても、テレビ局はある意味で公的機関なので徴収がしやすいというメリットがある。
男性が目をつけたのはまさにこの局側が楽曲が使い放題という包括契約にある。番組に使った楽曲について局側はJASRACに毎月報告する。JASRAC側は基本的に「放送収入の1.5%」の徴収枠組みが決まっているので報告内容に関して本当に使用されたのかどうかの精査は必要はない。ここに盲点がある。音響効果を担当した男性が自ら創作した楽曲を使用したとしてテレビ局に報告すれば、テレビ局はそのままJASRACに報告。JASRACはテレビ局の報告をもとに権利料を楽曲の制作側に支払うことになる。
記事によると、JASRACが男性に支払った著作権使用料は1900回で7400万円なので、1回の使用料が3万9千円となる。2年余りで1900回の使用だから、朝のニュース番組が毎日放送されたとして仮に延べ800日と計算して、1回の放送につき、2.4回の使用料が発生したことになる。実際は1回しか使用していなくても、2回と記載することは可能だっただろうし、ゼロ回でも1回と記載することも可能だったろう。放送ごとに毎日チャリンチャリンと現金が降って来た。
この一件が露見したのは日テレ側の内部告発ではないだろうか。同じ楽曲を流し続ければ、視聴者は聴き飽きる。以下は憶測だ。日テレの番組担当ディレクターが直接本人に、あるいは、男性が所属していた会社の担当者に「そろそろ番組に使う楽曲を変えてほしい」と指示したが、男性は変更しなかった。それを不審に感じた日テレ側が調査すると、その楽曲は男性自らが創ったものと分かった。そこで、報告書の使用回数を改めて調査すると合計で1900回と記載されていた。番組の映像はデータベースとして保存されているので、それをチェックすると、実際の使用回数は報告書記載の4分の1ほどと分かった。そこで、日テレがJASRACに虚偽の記載報告があったと通告したのではないだろうか。以上はあくまでも憶測だ。
手玉に取られたJASRACは男性が所属した会社に対し、実際の放送分と虚偽の申告分を差し引いた5500万円の賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。男性は著作権者であり社員だったが、この場合社員としての不正にあたり、JASRACとしては男性が所属する会社に賠償を求めた。
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