自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「福沢諭吉の時代」と現代

2019年08月28日 | ⇒ニュース走査

   かつて知人から教えてもらった言葉。「愚かな人は、すぐに怒りをあらわす、しかし賢い人は、はずかしめをも気にとめない」。ネットでその言葉を調べると、「旧約聖書」の「箴言(しんげん)十二章十六節」にあった。この言葉を思い起こしたのも、最近頻繁にニュースで取り上げられている、韓国政府から日本に向けたコメントが気に障っていたからだ。

   韓国側の気に障る言葉はいくつかある。今月2日、日本側が輸出管理上のホワイト国(優遇対象国)から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。これを受けて、韓国の文在寅大統領は「賊反荷杖」という韓国語の四字熟語を使って日本批判を展開した。日本語訳では「盗人猛々しい」に相当し、「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」と文氏の発言を伝えている(朝日新聞Web版)。文氏のコメントは自ら招集した緊急国務会議での発言で、いわば公式発言だ。

   もう一つ。今月22日、韓国側は日韓防衛当局間で軍事機密のやりとりを可能にするGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続せずに破棄すると発表した。翌日23日、駐韓日本大使を呼び、GSOMIA破棄を正式に通告した。さらに、韓国の李洛淵首相が「日本が不当な措置を元に戻せば、GSOMIA破棄を再検討できる」と述べ、ホワイト国除外の撤回を日本側に求めた。安全保障上の合意を輸出管理上の手続きと引き換えにするという発想が理解できない。大いなる勘違いなのではないか。

   それと連動するように、韓国軍は25日と26日、島根県の竹島周辺で軍事訓練を行った。これに対してアメリカ国務省は「韓国と日本の最近の意見の対立を考えれば、島での訓練のタイミング、メッセージ、規模の大きさは今の問題を解決するのに生産的ではない」と韓国批判のコメントを出している(27日付・NHKニュースWeb版)。もともとは韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題から始まったが、GSOMIA破棄まで来ると辟易(へきえき)とする。

   134年も前、隣国に対する憤りの念を持った人物がいた。福沢諭吉だ。主宰する日刊紙「時事新報」の1面社説にこう書いた。「・・独リ日本の旧套を脱したるのみならず、亜細亜全洲の中に在て新に一機軸を出し・・」(1885年3月16日付、本文はカタカナ漢字表記)。全文2400字に及ぶ記事の中で近隣諸国についてこう述べている。「日本を含めた3国は地理的にも近く”輔車唇歯(ほしゃしんし)”(お互いに助け合う不可分の関係)の関係だが、今のままでは両国は日本の助けにはならない。西欧諸国から日本が中国、朝鮮と同一視され、日本は無法の国とか陰陽五行の国かと疑われてしまう。これは日本国の一大不幸である」(鈴木隆敏編著『新聞人福澤諭吉に学ぶ~現代に生きる時事新報~』より引用)。

  福沢が唱えた「脱亜」の背景は、当時の清国、李氏朝鮮は近代化を拒否して儒教などの旧態依然とした体制に固執していた。そこで福沢は「我れは心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり」と記した。政治的な縁切り(国交断絶)ではなく、「謝絶」と表現した。謝りつつも要求には応えられない、と。当時の日本と隣国との関係性をリアルに表現している。そして現代と時代感がどこか通じるところがある。(※写真は、慶応義塾大学三田キャンパスの福沢諭吉像)

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