自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★文明論としての里山4

2010年01月01日 | ⇒トレンド探査

  里山をノスタルジックに感じる人もいれば、ビジネスチャンスがあると考えている人もいる。国連の提唱によって行われた地球規模の生態系に関する環境アセスメント「ミレニアム生態系評価(MA)」(2001-2005年)では、生態系サービスの変化と、その人間の福利への影響に焦点が当てられた。引き続き、国連大学高等研究所などが中心となって、日本では里山里海のサブ・グローバル評価(里山里海SGA)が実際されており、科学的なデータによる現状認識の合意形成を目指している。こうした生態系サービスといった概念の導入や、科学者の眼といったものが里山に注がれ始めるようになった。さらに、里山保全は環境問題の打開策(二酸化炭素の森林吸収、生物多様性の保全)の一つであるといわれるようになり、一般の理解が進んだ。

             一体、どこが病んでいるのか

  前回述べたように、<SATOYAMA=里山>は国際用語として認知されようとしている。環境省がG8環境大臣会合(08年5月)で採択された「生物多様性のための行動の呼びかけ」を受け、「実行のための日本の約束」として「SATOYAMA=里山イニシアティブ」(以下「里山イニシアティブ」)を打ち出した。生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏は、人と自然が共生するモデルとして描く里山イニシアティブに対し、「日本は成長を続けて現代的な社会を形成した一方で、文化や伝統、そして自然との関係を保ってきた。そのコンセプトは世界で有効であり、日本の経験に大きな期待が集まっている」(COP9での発言)と、条約事務局として支援を表明している。2010年10月にCOP10が名古屋市で開催されることもあり、日本発の<SATOYAMA=里山>は国際会議のキーワードになりつつある。

  こうして、里山という概念のグローバル化が起きている。里山を先駆的に調査研究してきた研究者たちは新たなチャンスと感じ始めている。また、COP10に向けて知事を先頭に里山の再生を政策課題として取り組む自治体も、石川県を始め多くなってきた。そして企業もだ。生態系サービスの手法は生物・生態系に由来し、人類の利益になる機能を経済的価値として算出するもの。たとえば、アメリカドルで年平均33兆㌦(振れ幅は16-54兆ドル)と見積もる報告もある(「Wikipedia」より)。こうした生態系が数値で示されることで企業が目を向け始めてきた。そして、いま里山で起きていることは「都会の若者の移住」という現象である。

  金沢大学が能登半島で環境配慮型の第一次産業の担い手を養成をしている。現在50人の社会人が土曜日を中心に学んでいるが、うち7人が移住組だ。元映画製作者やITエンジニアなど多彩。能登に移住して、農業法人やNPO、ショップで働きながら学んでいる。横須賀市から一昨年移住してきたITエンジニアは顔が青白かった。ところが、いまは農業法人に勤め、実にたくましくなった。先日も雪のネギ畑を訪ねると、「雪のネギは甘みがあってうまいっすよ」と一本差し出してくれた。36歳、農業での独立を夢見ている。彼らは、都会を捨ててなぜ能登半島にやってきたのか。行き詰っているのは経済ではなく、消費するだけの都会ではないのか。文明の曲がり角論をひも解くカギ、それは地方にあるのではないかとにらんでいる。

 ⇒1日(土)夜・金沢の天気  ゆき

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