自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆先端はフロンティア

2009年03月22日 | ⇒トピック往来
 春の嵐のように北陸地方は荒れ模様だ。きょうは思いつくままに書く。金沢大学里山プロジェクトの代表研究者、中村浩二教授は常日頃、「大学らしからぬことをやろう」と周囲に話している。中村教授が先頭に立って、2006年10月に三井物産環境基金を得て、能登半島の最先端に「能登半島 里山里海自然学校」を開設した。これまでの、あるいは今でも、大学の在り方は、学問や勉強をしたい人は大学の門をたたけば入れてあげるというスタンスだ。中村教授の「大学らしからぬこと」は、能登へ出掛けようと言い切って実行したこと。この点がこれまでの大学の流儀と全然違うところだ。


 石川県珠洲市で廃校になっていた「小泊小学校」という学校施設を借りして、研究と交流の拠点をつくった。このとき、地域の人からこんなことを言われた。輪島の人は「奥能登の中心と言ったら輪島やぞ。なんで輪島につくらんがいね」と。そして、珠洲の人は「珠洲の中心は飯田やがいね。なんで辺ぴな小泊みたいなところにつくるのや。なんで飯田につくらんがいね」と。中村教授を始めとして我われは天邪鬼(アマノジェク)でもあり、なるべく過疎地へ行って拠点を構える。そうすることによって、新たな何か発見があると考えたのだ。買い物や人集めに便利だとか考えて中心に拠点を構えて何かをやろうとするのはビジネスの世界だ。研究の世界ではそうはいかない。まず、人気(ひとけ)のいない過疎地で研究拠点を構え、そこでじわじわと地域活性化の糸口をつかんでいく、あるいは大学の研究のネタを探していく。足のつま先を揉み解すと血行がよくなり体の全体がポカポカしてくるのと同じだ。

 いま、能登半島の先端の珠洲市は風力発電やマグロの蓄養など環境を生かした産業づくりに頑張っている。すると、周辺の自治体も負けてはいられないと、木質バイオマスや里海を生かした施策に乗り出してきている。先端が中心を刺激するというスパイラルが我々が理想としていたことだ。

 さらに、先端は研究のフロンティアでもある。珠洲の人が「辺ぴなところ」と呼んだ片田舎の小学校だが、もしこれがテナントビルだったら「満室御礼」だ。1階に「能登半島 里山里海自然学校」。ここでは生物多様性の研究をしている。2階は科学技術振興調整費による「能登里山マイスター」養成プログラム。これは環境人材の養成、いわば社会人教育の拠点。ここで35人の人材を育成している。来月から3期生20人余りが新たに受講にやってくる。5年間で60人を養成する予定。さらに3階には「大気観測・能登スーパーサイト」(三井物産環境基金の支援)が入り、黄砂の研究をしている。

 先端に拠点を構えたから、研究のフロンティアとしての価値が見出され、続々と研究者が集まってくるようになった。「大学らしかぬこと」とは研究のチャンスを冒険的に見出すことと考えると分かり易い。

※廃校だった小学校を研究交流拠点としてリユースし、校庭では黄砂採取の気球が上がる。
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