自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登と金大のいま‐中

2009年02月15日 | ⇒キャンパス見聞

 金沢大学はかつて城下町の中心街にあったが、20年ほど前に金沢近郊の里山に移転した。山の中なので、タヌキ、キツネ、ときにはクマも出る。「せっかくだから、この周囲の森を利用しよう」と自然生態学の研究者たちは意気揚々となった。それが金大の里山活動の第一歩になった。1999年からキャンパスの里山を研究し、その森を市民参加で活用することがスタートした。10年ほど前に「エコ」という言葉が一種のブームになり、エコがいっぱいの森の大学で、野鳥観察会などが始まった。いまでは市民ボランティア650人が登録していて、毎月第2と第4土曜日に活動している。小学校の子供たちにも総合学習の場として提供し、竹林の整備やキャンパス内の棚田で農薬を使わない50年前の米作りを市民ボランティアの人たちと一緒にやっている。無農薬の田んぼにはゲンジボタルやヘイケボタルがやってきてちょっとした名所にもなっている。

  「里山マイスター」目指す35人

  そして、能登半島では社会人の人材養成に「里山マイスター養成プログラム」が動いている。社会人を対象にして、特に能登半島で農業や漁業をやりたいという都会からの再チャレンジ組み、I/Uターンの人たち。われわれが目指しているのは環境配慮型。なるべく農薬や除草剤を使わない、そんな農業を能登半島でどうやったら実現できるか。現在1、2期生を合わせて35人が学んでいる。目指す人材育成の3つの要素は「環境配慮と生産技術に工夫を凝らす篤農(とくのう)人材」、「農産物に付加価値をつけるビジネス人材」、「地域と連携し新事業を創造するリーダー人材」。このどれか一つではなく、これら三つを兼ね備えた人材を作っていこうというのがこのプログラムの欲張りなところだ。

  授業は毎週土曜日と隔週金曜日にあって、ワークショップや実習が中心の授業である。農業人を育てると公言しているが、実は金沢大学には農学部がないので、実地の部分は地元の農業・林業・水産業のプロの人たちに指導を願っている。農業、水産業、林業をひととおり体験してもらうことで、自分は農業だけしかやったことがなかったけれど、林業もできるかもしれないとか、水産加工物と農作物をミックスしてお漬け物のかぶら寿司(ブリと青カブラのこうじ漬け)を作ったりと、発想が柔軟になる。

  また、リモートセンシングの衛星データを解析して作柄の管理をするなど、新技術の習得もやる。この人材養成プログラムは、国の委託を受けてやっているので授業料は無料。2年間のプログラムを学んで卒論を書くと「里山マイスター」の称号が学長から授与される。5年間で60人の里山マイスターを育成することが目標だ。

  さて、これまで環境配慮、里山と言ってきたが、果たしてこのプログラムが地域再生につながるのか、たかだか農業人材や一次産業の人材を60人養成したからといって、過疎がとまるのか、と我々もそんなに簡単ではないと考えている。むしろ、必要なのは能登の将来ビジョン、あるいは戦略や仕掛けといったものだ。(次回に続く) ※写真は、里山マイスター養成プログラムの田植え実習。

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