ジャンル 展覧会(写真)
タイトル 「鈴木清 天幕の街 MIND GAME」
会場 富士フィルムスクエア
1月15日羽村の宗禅寺で執り行われた亡くなった水族館劇場座長桃山邑の納骨式とお別れ会で、妻の千代次さんが、お別れ会の席で、桃山がとても愛していた写真家鈴木清の写真展をいま六本木でやっていますとアナウンスしてくれたことで、初めてこの展覧会のことを知った。また大げさなと思われるかもしれないが、これはひとつの運命だったのではないかとと見終わったいま思う。翌日六本木で芝居を見にいくことになっていたのだ。桃山が愛した写真家でしかもその写真展のタイトルが「天幕の街」、行くしかないだろう。
地下道にも大きなポスターがあるし、チラシも立派なものだが、展示スペースはとても狭く、展示されている28点と小さな展示会である。しかしとても充実した内容で、素晴らしいものだった。
タイトル通り、サーカスを撮影したものが半分以上の21点、そのなかには天幕だけでなく、私にもなじみのドイツのクラウン(DDRのユーリー)を含む芸人さん、そしてチラシにもなっている象の写真もある、どれもが奇をてらったものではないが、その存在をほんのりと浮かび上がらせる。
海外の芸人さんが写っている年代は1979年東京・千駄ヶ谷となっている。おそらく後楽園で公演したハーゲンベックサーカスの時のものだろう。日本のサーカスはどこだろう、国際サーカスか関根サーカス、カキヌマサーカスのどれかではないかと思う。天幕の外観、そして中を撮ったものも、フォトジェニックでもない、鋭角的でもない、なにか優しさを秘め、淡いのだが、しっかりとその存在を訴えているものばかりで、しばし立ちどまって見入ってしまった。
最後のコーナーには、この展示会のもととなった写真集の実物が置いてあり、手にとってみることもできた。いい写真集だ。これを見るだけでも来て良かったと思った。
次のような一文がパネルに掲示されていた。とてもいい文章だった。写真撮影は禁じられていたので、メモ帳に書き留めた。(もしかしたら間違いもあるかもしれない)
「サーカスの天幕は、私にとって一つの至福の場所である。子どものころ、ただ一度だけ見た小屋掛けのサーカスの経験は匂いや色をともなって、私の躰にしみつき、心の一番深いところにいまもある。そしてふとしたとき、天幕の世界はあやしく私を誘いこむ。虚飾と仮象の世界、昏く、輝き出されたスポットサイトの圏内で演じられるスペクタクルの、芸と技の見事な綾取りゲームに目をうばわれるなかで、私は道化師や曲芸師にいつしか心をなげかけ、遠くをみつめはじめる・・・・
私は人間の在ることの無限を感じとりながら、天幕を出るが、この私たちの日常の世界も一つのエピローグのないサーカスであるという、街の上の舞台に化粧し、演じくり広げるひとりびとりの生のスペクタクルもここでも見るのだ」
心に沁みる写真ばかりだった。
千代次に、そして桃山に感謝しなくてはならない。