デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

青狐の島

2020-08-05 18:38:14 | 買った本・読んだ本
書名 「青狐の島」
著者 スティーブン・R・バウン(小林政子訳) 出版社 国書刊行会 出版年2020

このところアリューシャン列島関係の本を断片的に読んでいる。これは今年出たカナダのノンフィクション作家が書いたベーリングの北太平洋探検についての歴史ノンフィクション。歴史上ベーリングはロシアのアラスカ進出の先陣を切ったことになるが(実際は毛皮職人たちが早々とアラスカに渡っていた)、ピョートル大帝の意向を組んだその探検のスケールの大きさにまずは驚かされた。3000人もの大部隊が、シベリアを横断(いろいろコースをとりながら)してから、今度はカムチャッカ半島に到着後、アメリカ大陸へ向けての北太平洋航海のために船を建造、それから航海に向うというのだから、まさに驚きの大探検である。せっかくいくのだからということで、学者による調査も盛り込まれ、リーダーは大変な責務を負っていたかということになるのだが、著者によるとベーリングはカリスマ的リーダーシップをとるというタイプではなく、どちらかというと慎重派で、探検を命じた政府の意向をまず第一義ということでリードしていたようだ。彼は家族をカムチャッカまでに同行し、道中も贅をつくしたものであったという。探検家というイメージがなかなかわかない人のように描かれている。面白いのは多額の国費をかけての探検なので、局面局面での判断についてはリーダーの一存ではなく、合議によって決定、誰がどのような意見を言っていたかについてはいちいちこまかく報告書に記載していたという。ベーリングはこうしたしばりのなかで自分が判断するというよりは周りのことを気にしながら探検を進めていたことになる。こんな大所帯だからまとまりはなく、いろいろ衝突もあり、とにかく遅れに遅れての探検となり、結局は二次探検ではアメリカ大陸をなんとか確認し戻る途中、船は座礁、カムチャッカまでたどり着けず、いまはベーリング島と名づけられている島で冬を越すことになる。この島での話しがこの書の一番のよみどころとなる。壊血病で次から次へ隊員が亡くなり、ベーリングも死亡、ここで実質指揮をとるのは、探検中皆から総スカンをくらっていた学者と息子と一緒に参加していた海軍士官だった。壊血病を克服し、座礁した船での帰港を諦めて、その船材で新たに船を建造してカムチャッカまで戻るまでを指揮をとったふたりの手記をもとに、なかなかスリリングに描かれている。ベーリングをはじめ、多くの隊員たちは壊血病に苦しみ、何十人も命を落としていることを考えると、同じアリューシャンの小島でおよそ一年間過ごしながら、犠牲者をまったく出さずに生き延びた若宮丸漂流民たちの生命力はあらためてすごいと思う。同じようにアリューシャンで過ごすことになった伊勢神昌丸の乗組員の多くも壊血病で命を落としている。なぜ若宮丸漂流民たちは壊血病にならなかったのか、このあたりのことはもう少し突っ込んでみることは、コロナ時代を生き延びなければならない私たちにとっても大切なことかもしれない。
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阿蘭陀通詞の研究

2020-08-05 17:27:22 | 買った本・読んだ本
書名 「阿蘭陀通詞の研究」
著者 片桐一男 出版社 吉川弘文館 出版年 1985
レザーノフの日誌の翻訳をやってから長崎通詞の存在が気になり、これは読まないといけないのではないかと思い買っていた本で、ずっと書棚に置いたままになっていた。レザーノフの長崎滞在の時のことを小説形式で書けないかという構想をずっと持ち続けていたのだが、そろそろその構成を考えようかと思い、この650頁を越える大著に挑むことになった。オランダ通詞研究の第一人者が執筆当時ほとんど誰も手をつけていなかった文献資料を読み起こし、通詞の全体像を明らかにしようと、正々堂々と向かい合って書き上げた一級の研究書である。オランダ語がまったくわからない者にとっては、辞書とか文法の話しになると理解できないところも多々あったが、これまでほとんど明らかにされなかった通詞たちの仕事の実態がはっきりとさせたことは、この書の最も大きな読みどころである。なにより彼らが身分としては町人に属していたことをはっきりとさせたことは大きい。町役人として奉行所とオランダ商館に奉仕専門する技能職集団で、侍とは一線を画す存在であった。以前大黒屋光太夫研究の第一人者である山下恒夫氏が、さかんに通訳は所詮町人だったのだからといささか見下したような言い方をしていたことが思い出される。町人階級のかなりアッパーな地位にいたことがこの書で明らかにされているのだが、さらにオランダとの貿易の現場にかなり深く関わっていたこともわかる。特に興味深かったのは、通詞の仕事の中で御内用方通詞という職分があり、彼らは江戸の幕閣や将軍の直接の注文に対してオランダとの窓口になっていた。これはひとつの特権ともいえる。もうひとつは天才的通詞と言われた馬場佐十郎のオランダ語研究にいかに大きな仕事を成し遂げたかということを明らかにしたことである。彼のことを誰か小説にしていないのだろうか。魅力的な人物である。ロシア語もやっていたこの男が早くに亡くなったことは幕末日本にとっても大きな痛手となったのではないか。また民間の学者たちの猛烈な洋学に対する向学心も知ることができる。これはいまは本になっているのかもしれないが特に鷹見泉石の未刊行文献によって、彼がどれだけの熱情をもって、洋書入手や学習に意欲を燃やしていたかもしることができる。だいぶ前に書かれた本なので、長崎通詞研究はさらにいまでは進んでいるとは思うが、この書が長崎通詞研究の礎をつくっているのは間違いないだろう。

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ゴリラの調教に驚く

2020-08-05 09:29:21 | デラシネ日誌
午後録画していたビデオを見る。
市川昆の「東京オリンピック」の後半。マラソンと閉会式が感動的だった。まだこの頃は商業主義に毒されておらず、純粋にスポーツがもたらす感動にひたれた時代だったと改めて思う。
「発見!ニッポンの100年 企業の(秘)映像タイムズ」の中の東山動物園で演じられていたというゴリアのショーには驚愕してしまった。浅井さんという飼育員の人が調教していたようだが、これは凄い。3頭のゴリラを一緒に扱っていた。白瀬大尉の南極探検の映像もすごかった。企業が持っている映像というのはいいところに目をつけたと思う。
2018年に放映されたという「慶欧使節団400年の真実」という番組も、よく取材されていたし、発見も多く見応えがあった。支倉常長のご子孫さんに一度会ってみたいものだ。
「ロマノフ王朝時代の日露交流」の本が届く。図版が多い。サンクトについてのコラムを書いている学生さんとは東洋学研究所で会っていたことに気づく。

今日はかつおの刺身で一杯の日。
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