ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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★2013年 ヌルボの個人的映画ベスト10

2013-12-28 21:07:58 | 韓国映画(&その他の映画)
 下は昨晩撮った写真。この時間(23:50頃)に、こんな所(横浜MM)でフツーの健全なオジサン(ジイサン?)が1人歩きしているのを何と評すべきか? 自分自身とその生活を客観視するのはむずかしいものです。

      
   【このような21世紀的風景にやっと少し慣れてきた20世紀人の私ヌルボです。】

 横浜ブルク13で最終日・最終回(って、21:50~の1回のみ上映)の「ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして」を観終えたのがこの時間だったというわけです。
 そして、これをもって今年の映画鑑賞はおしまい。

 2013年に映画館で観た映画は計81本。1~6月が35本、7~12月が46本です。
 その中で純粋な韓国映画は、2012年が33本だったのに対して、2013年は21本と激減。また、「純粋な」以外では、中国映画「豆満江」や、日本映画「李藝 最初の朝鮮通信使」、北朝鮮映画「花売る乙女」「プルガサリ」等々が韓国・北朝鮮関係。
 どうも、「たまたま」なのか何らかの理由があるのかはわかりませんが、2013年日本で公開された韓国映画は前年に比べると全体的にレベルが低下していると(なんとなく)思いました。

 で、2013年個人的映画ベスト10なんですが、昨年に続き 今回もすごく考えました。
  ※昨年の記事は→コチラ
 とりあえず、結果は以下の通りです。

[2013年]
①セデック・バレ
②少女は自転車にのって
③きっと、うまくいく
④もうひとりの息子
嘆きのピエタ
⑥あの頃、君を追いかけた
⑦シュガーマン 奇跡に愛された男
⑧ハンナ・アーレント
王になった男
建築学概論
 [次点] 殺人の告白 ・凶悪
 [別格] 阿賀に生きる
 [多くの人に観てほしい作品] ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして

赤色は韓国映画または韓国・北朝鮮に関係する映画です。

 さて、今回のベスト10をツラツラ眺めてみて自己分析してみると、まず言えるのは<世界さまざま>ということ。
 ①と⑥が台湾、②はサウジアラビア、③がインド、④がパレスチナ&イスラエル、⑦がアメリカ(デトロイト)と南アフリカ、そして⑧がドイツとイスラエル。
 アラ、アメリカ映画がないぞ。メモを見ると、81本中アメリカ映画は6本だけか。観たい映画を観た結果がそうなった、ということです。
 アラ、①~⑩までに日本映画もないぞ、・・・ということにも気づいたので、後から[次点]で「凶悪」を入れておきました。しかし、この作品も原作本の方が上だったですけどね。リリー・フランキー(◎)は助演男優賞ね。
 「阿賀に生きる」の[別格]は再上映だし、ヌルボ自身2度目だから。

 このベスト10の顕著な傾向その2は<政治・社会・歴史関係>の作品が多いということ。①②④⑧、⑤や⑨もかな? 傾向その3は青春映画。⑥と⑩ですね。②、③も入るかも。

 ま、例年もほぼ同じ傾向ですが、つまりは、いかにも高校の社会科教師なんかが生徒に薦めそうな映画ってことでしょうか。

 以下、個別にみていきます。

 ベスト3の中から、1位を何にするか首をひねりました。
 娯楽性を重視するなら「きっと、うまくいく」近年のインド映画中でもひときわ見応えがありました
 「少女は自転車にのって」は、現在のサウジアラビアの女性差別という問題をテーマにしていながら、観客席から何度も笑い声が起こるような軽やかで親しみがもてる作品。主人公の女の子の表情も◎!
 で、結局「セデック・バレ」がやっぱり1位だなと思ったのは、質・量ともに重厚で、そこに込められた監督や俳優の熱気に打たれたから。また内容的にも、(韓国とは対照的に)日本びいきの国とされている台湾でこのような過去があり、それをこのような作品に描くという「現在」があり・・・ということを日本人はしっかり受けとめなければ、との思いもあるからです。
 4位の「もうひとりの息子」は、ユダヤ人とパレスチナ人を争わせているような民族アイデンティティといったものを見つめ直す、(われわれ日本人にとっては)ある意味「わかりやすい」映画。生まれて18年経ってから「病院で子どもを取り違えた」なんてねー。ユダヤ人とパレスチナ人の容貌の違いなんて、双方の親も気づかないレベルなんですね。しかし交流の始まった2つの家庭で、まず小さな女の子同士が会ったその日から友だちになったのに対して、双方の父親同士がなかなか厄介で・・・、というのはさもありなんでした。
 5位「嘆きのピエタ」は息がつまるような作品。キム・ギドク監督、怖い! 映画も怖いけど、映画にここまでのめり込んでいるキム・ギドク監督が怖いのです。張り詰めた緊張感と、雪景色の映像の美しさと、そこに描き出された人間の運命や社会の絶望的な<寒さ>は「春夏秋冬そして春」に通じるものがあります。
 6位「あの頃、君を追いかけた」と10位「建築学概論」は、実らなかった初恋映画。2作品の<温度差>は、台湾と韓国の温度差と関係あるかな? 前者は<陽性>ってことです。「あの頃、君を追いかけた」の方はスケベっぽくて、「建築学概論」の方はひたすら純情な少年。私ヌルボの軍配は、前者! 
 7位「シュガーマン 奇跡に愛された男」は、観終わったあとが気持ちいいドキュメンタリー。それは(南アフリカ以外では)「忘れ去られた歌手」のシクスト・ロドリゲスの生き方が多くの観客の共感をよぶから。ヌルボもその1人。
 8位「ハンナ・アーレント」<ふつうの人の戦争犯罪>について考えさせられます。ヌルボが思ったのは、<敗戦国>国民の日本人は、ハンナ・アーレントの見方を「表面的には」理解しやすいのではないか、ということ。「戦犯」とされた自分たちの父や祖父も皆<ふつうの人>だったことは自分たちがよく知っているし・・・。しかし、だからといってハンナ・アーレントはそんな<ふつうの人>を免罪しているわけではないのですけどね。これについては、もう一人のハンナのことを思い起こしました。ハンナ・シュミット。つまりシュリンクの小説「朗読者」の登場人物です。
 9位の「王になった男」は、韓国の娯楽時代劇の王道的作品。リクツを言えばいろいろありましょうが、リクツ抜きで楽しめました。

 ここで最後に観た、そして[多くの人に観てほしい作品]としてピックアップした「ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして」について。
 イラク戦争が始まったのが2003年。もう10年も経つのですね。あ、「始まった」のではなく、正確にはアメリカが始めた、です。で、日本もアメリカを支持した、そしてサマワに自衛隊を派遣した、等々。
 多くの日本人にとって、イラク戦争は遠い過去の話のようになってしまった感があります。
 しかし、このドキュメンタリー映画によると、イラクではまだシーア派とスンニ派間の紛争等が続き、またアメリカ軍が使用した劣化ウラン弾の影響と思われる先天性異常を有する新生児が増えている等々、平和な社会にはまだほど遠い状態にあるのです。
 この映画は2004年に起こった3人の日本人人質事件の当事者のその後、そして今をたどっています。あの「自己責任!」を合言葉に起こった大バッシングのターゲットとなった人たちです。
 私ヌルボ、ここでは彼らについてのことは書きませんが、当時<自己責任>という言葉で彼らを批判した人たちに問いかけたいと思います。
 それはあなた方にとっての、いやわれわれ日本人すべてにとっての<責任>のありようについてです。
 イラク戦争でのアメリカ人の死者は4489人だそうです。それに対し、イラク人の死者は12万人とも19万人とも。(この大きな差はいったい何を意味しているのか!?)
 映画の中で、墓地が映されていました。小さな石の墓、つまり子どもの墓がたくさん並んでいるのです。
 彼らの死に対して、責任を負っているのは誰か? 直接的にはアメリカ。その後、戦争の理由とされた<大量破壊兵器>はなかったということがブッシュ大統領自身から公表されました。つまり、最初から理由なく仕掛けられた戦争だったのです。その結果、9.11事件の何倍もの人命が失われ・・・。
 そのアメリカを支持した日本国民として、上記のような多くの無辜の人々の死に<責任>がないとわれわれは言い切れますか?
 とくに声高に<自己責任>を追及していた人たちは、それならばどれだけ<国民としての責任>を自覚していたのか・・・。こうした問題は10年前の問題であったのと同時に、まさに現代の問題です。
 (たぶん、運命共同体としての日本国民の利害を基準として考える人たちは、イラク人のことは考える必要がないのでしょうね。)

 昨晩観たばかりで記憶の生々しい映画ということで、ちょいとのめり込み過ぎてしまいましたが、できるだけ多くの人に観てもらって、知ってもらって、考えてみてほしいと思いました。

[参考]過去6年のベスト10

[2012年]①ニーチェの馬②ヒューゴの不思議な発明③プンサンケ(豊山犬)ワンドゥギ拝啓、愛しています⑥ロボット 完全版⑦桐島、部活やめるってよ⑧三池 終わらない炭鉱(やま)の物語⑨かぞくのくに⑩ピアノマニア 別格:春夏秋冬そして春

[2011年]①サラの鍵②テザ 慟哭の大地③愛する人④彼とわたしの漂流日記⑤アリス・クリードの失踪⑥阪急電車 片道15分の奇跡⑦牛と一緒に7泊8日⑧未来を生きる君たちへ⑨ゴーストライター⑩エンディングノート

[2010年]息もできない過速スキャンダル冬の小鳥④ゲキシネ蛮幽鬼(日)⑤実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(日)⑥告白(日)⑦瞳の奥の秘密⑧飛べ!ペンギン⑨川の底からこんにちは(日)⑩ONE SHOT ONE KILL

[2009年]①グラン・トリノ②ディア・ピョンヤン(日)③妻が結婚した母なる証明チェイサー⑥チェンジリング⑦劔岳 点の記(日)⑧チョコレート・ファイター⑨戦場のワルツ⑩牛の鈴音

[2008年]①ダークナイト②パコと魔法の絵本(日)③ウリハッキョ(日)④休暇(日)⑤シークレット・サンシャイン⑥ラスト・コーション⑦接吻(日)⑧おくりびと(日)⑨闇の子供たち(日)⑩火垂るの墓・実写版(日)

[2007年]①世界最速のインディアン②パンズ・ラビリンス③キサラギ(日)④ドリームガールズ⑤それでも僕はやっていない(日)⑥夕凪の街 桜の国(日)⑦幸福(しあわせ)のスイッチ(日)⑧檸檬の頃(日)⑨幸福(こうふく)の食卓(日)⑩私たちの幸せな時間