学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

捏造 or パロディ

2008-06-15 | 日本文学
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年 6月15日(日)00時46分8秒

>大黒屋さん
「日本文学出版交流センター」という団体がありますが、ここでは二つの事業を行っていて、ひとつは、
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1) 現代日本文学の翻訳普及事業(JLPP) 〈文化庁主催事業〉
「現代日本文学の翻訳普及事業」(Japanese Literature Publishing Project:JLPP)は、明治時代以降の日本の小説から選んだ作品を英語、フランス語、ロシア語、ドイツ語に翻訳し、諸外国の一般出版社から発行する文化庁主催の事業です。
2002年に第1回対象作品として27作品、2005年には第2回対象作品として34作品が選ばれました。J-Lit Centerは、文化庁から委託を受け、JLPPを運営しています。当センターは、選定された対象作品に関する権利処理をはじめ、翻訳者の選定、出版社との契約締結など、プロジェクトを支える一切の業務に携わっています。
 出版物は各国の書店で販売されるほか、世界各国の文化機関(図書館、大学等)に寄贈されます。
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というもので、基本的に従来型の出版ですね。
そして、もうひとつが、

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2) 短編小説翻訳オンライン出版プログラム (Japanese Fiction Project)
「現代日本の新しい小説で外国語に翻訳されたものがあったら読んでみたい」――現代日本文学に関心のある外国人や海外在住の日本人のこういう声をよく耳にします。最新の日本文学出版に対する海外からの要望は高いのですが、翻訳出版にかかるコストなどの問題があるため、出版物の製作、発行や入手はあまり容易ではありません。
そこで多くの人がアクセスしやすいインターネットを利用して、今、日本で注目される短編小説を英訳しウエブサイトに掲載するJapanese Fiction Projectを始めました。これまで、星野智幸「チノ」、野中柊「ヨモギ・アイス」、藤野千夜「おしゃべり怪談」を掲載。

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というもので、文化庁の支援はないようですが、発想としてはこちらの方が面白いですね。
まだ権威ある存在ではありませんが、文化庁に近いところで、このようなことをやっている団体もありますので、ご参考まで。

http://www.j-lit.or.jp/j/programs/translation.html

>筆綾丸さん
渡辺裕美子氏「<書かれた説話>としての『今物語』」から、少し引用してみます。

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 『今物語』の成立した頃には、西行没後五十年を経過しており、西行の大歌人としての声望は高まる一方であった。その西行が、訪ねていった伏見中納言源師仲の邸で侍に頬を殴られて、這う這うの体で帰るという内容である。この話は、表現の細かな一致から、次の『山家集』一〇四二番と無関係であるとは考えられない。
   八月、月の頃、夜更けて北白川へまかりけり。由あるやう
   なる家の侍りけるに、もの音のしければ、立ち止まりて聞
   きけり。折りあはれに秋風楽と申す楽なりけり。庭を見入
   りければ、浅茅の露に月の宿れる景色あはれなり。そひた
   る荻の風、身にしむらんと覚えて、申し入れて通りける
 秋風のことに身にしむこよひかな月さへすめる庭のけしきに
第一八話は、「『山家集』の詞書などから捏造された話かもしれない」と既に指摘されているが、それはこの話に限ったことではなく、このように原本を利用しつつ新たに説話を構成することこそが、『今物語』の主要な方法であると考えられる。ここに口承の段階が入り込む余地はないだろう。
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注記によると、「捏造」と指摘されているのは久保田淳氏だそうです。
私は久保田氏の論文、「北白川・泉・秋風楽」(『和歌史研究会会報』1985・8)は未読ですが、「捏造」というよりはパロディじゃないですかね。
少し権威的になりすぎた西行という存在を、悪戯好きの信実がちょっとからかってみたのでは、と思うのですが。

※下記投稿へのレスです。
「なるほど」(大黒屋さん)
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/4563
「平治の乱」(筆綾丸さん)
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/4564
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