大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第61回

2017年03月23日 22時51分19秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第61回




無言で鐙の長さを調整する。

「タイリン、鐙に足を入てみろ」 ここだというように指をさす。

「え? でも・・・」

「いいから」 少し睨んで言い切る。
睨まれた事が恐くてタイリンが鐙に足を入れた。

「そんなに深く入れては駄目だ。 もっと浅く」 言われ、鐙から少し足を引いた。

「よし、次は手綱を取れ」

「え?」 バランガが少し意地悪く片方の口の端を上げた。

「で、でも・・・」

「でもも何もない。 早く手綱を取れ」 

声音静かに言うその言葉、今までのバランガと違う。 タイリンがオドオドと手綱を持った。

「よし、だが持ち方が違う」 そう言うと、手綱の持ち方を教えた。

「手綱を緩めて、踵で馬の腹を蹴ってみろ」 言われてチョンと腹を蹴ってみた。 と言うより、踵を腹に当ててみた。

「力が足りない。 もっと強く」

「でも、腹を蹴られると馬も痛いはず・・・」

「痛いほど蹴るな。 って、タイリンがどれだけ強く蹴っても馬は痛いと思わん。 他の者が蹴るとどうか分からんがな。 ほら、蹴ってみろ」 言われ、勇気を出して蹴ってみた。
すると馬が前進しだした。

「わっ、わっ!」 恐さで思わず手綱を引いた。 馬が静止した。

「手綱を引くな、手綱は緩く持っておけ。 もう一度蹴ってみろ」 

今度はさっきより少しは勇気を出した。 言われるままに踵で蹴った。
馬が歩き出した。 さっきと違って手綱をちゃんと緩めている。 バランガが馬の横を歩いているのも安心材料だ。

「よし、そのまま少し歩こう」 

タイリンに余裕はないが、もう慌てることもない。
バランガが無言で馬の横に付く。 そのバランガの中で疑問が芽生えていた。

(タイリンのこの歳になるのに、馬に乗った事がない。 手綱の持ち方も知らないなんて有り得ない。 それに、前に会ったとき、シノハが言っていた。 タイリンは挨拶をした事がないと。 どういう事だ。 ・・・まぁ、この村で何があっても知ったこっちゃないが・・・。 それにしてもシノハがどうしてこんなに長くこの村に居るんだ) 
バランガが頭をうな垂れて考え事をしている横で、タイリンは目を生き生きとさせて馬上に居たが、少々不安になった。

「バランガさん、このままずっと真っ直ぐに歩くんですか?」 タイリンに問われ、バランガが顔を上げた。

「あ、ああ。 そうだな。 そろそろ帰ろうか。 それでは左の手綱を引いて左足を馬に当ててみろ」

「え? 足?」

「ああ、左の手綱を引いて左の足を馬の身体に当てるんだ」 言われたことを実践してみると、馬が左周りに回りだした。

「わっ、わっ!」 タイリンが驚いて足を緩め両の手綱を引いた。 すると馬が止まった。

「こら! 両手で手綱を引くんじゃないよ。 もう一度、左の手綱を引いて左足を馬に当てろ」

今度は言われるままにそれをやった。
馬がクルリと回転した。

「よし、手綱を緩めて足も緩めろ」 すぐに手綱の力を緩め、足の力も抜いた。 すると馬が止まった。

「と・・・止まった・・・」 タイリンが目を大きく見開いた。

「手綱、足で馬を動かす、止める。 それが基本だ」 言うと、今までと違った優しい表情を見せて言葉を繋いだ。

「それじゃあ、あとちょっと乗ってから森に帰るか。 聞きたい話もあるからな」 

「え? 聞きたい話? ・・・俺にわかるかなぁ?」

「ああ、知っている事を教えてくれるだけでいい」 言うと、タイリンに鐙から足を外すように言うと、鐙の長さをを調節しなおしてバランガも乗り、馬を走らせた。


大きな焚き火の周りにはトンデン村の者と共に、少し離れた所にシノハとゴンドュー村の三人がいる。 
ドンダダとドンダダ側の男たち数人は焚き火には来ず、小屋の中に居る。 

焚き火の周りに来る前、トンデン村の馬を集めてもらった事への礼はタム婆からの礼となった。 長が未だ起き上がれないと聞き、また“才ある者” が“才ある婆様” だ。 馬に乗ってゴンドュー村へ来る事も出来ない。 長が起き上がることが出来るまでは“才ある者” からの礼を受け取った。
今、長が起き上がれないという禍根の種は地の怒りではなく、言うに言えない理由だ。 よって、地の怒りからまだ起き上がれていない事にしていた。

三人は納得しゴンドューの村へ帰り、その旨を村長に伝えるという事になった。
そして三人は、明日のシノハの戦いを見届けたいと、今晩はこの森で過ごす事にし、焚き火の周りで客人の扱いを受けていた。

「それにしても、どうしてトンデン村に来られたのですか?」 先ほどからの話だと、トンデン村からゴンドュー村への礼がないという事で来たのではないと分かり聞いてみた。

「おお、忘れておった」 クジャムがそう言いながら、大きな猪肉を口に入れた。 それを見たサラニンがクジャムに代わって口を開く。

「俺たちはオロンガへ行ったんだ」

「え? オロンガへですか?」 シノハの村である。

「ああ、お前がまだ帰ってきていないと聞いてビックリしたぞ」 

サラニンのその言葉にゴクリと猪肉を飲み込んだクジャムが言葉を添えた。

「あの時言っただろう。 病を貰うやもしれんぞと」 

地の怒りがありトンデン村から逃げた馬を集めて連れてきたとき、「こんな村にいると病を持つぞ・・・」 とクジャムがシノハに言った言葉である。

「だからもしや、本当に病にかかっているのかと思ってな」 クジャムの言葉に続いてサラニンが眉を上げて言った。


オロンガの村へ行った三人が、先にトンデン村でシノハに会ったが、そのシノハが未だにオロンガ村に帰ってきていないことを知り、トンデン村へシノハの様子を見に行くと決めた。 
それを知ったセナ婆が、三人からトンデン村の様子を聞き、トンデン村に行くのなら渡してほしいと、他の村から薬草の代わりに貰い受けた沢山の干し肉とオロンガの薬草が入ったパンを預けた。 
そして三人はセナ婆には言わなかったが、もしシノハが病にかかっていたなら、精をつけさせなければとオロンガを出て道々狩ってきた猪肉を持っていた。
タム婆と話し終え、それらを渡すと女たちが喜んで受け取り料理を始めていた。


「セナ婆様が心配しておられたぞ」 バランガが横目でシノハを見た。

「ああ・・・やはりそうですか。 思いのほか長居をしてしまっています。 ・・・と言う事は、前にこの村に来たときの帰りにオロンガの誰とも会わなかったという事ですか?」

「ああ、会わなかった。 それにオロンガからの代理の使いもなかったからな。 使いがないから俺たちからオロンガに出向いたんだ」

「ゴンドュー村から我が村には、ケアニン達が使いで来るはずなのにどうしてクジャム達が?」 

オロンガ村では使いに走るのは一人だが、ゴンドュー村の使いは常に三人で動いている。 気が短い、荒くれだから三人のうち、少なくとも一人がそれを制するためであった。

「何かあったんですか?」 シノハの言葉にサラニンとバランガが眉を上げ、半眼でクジャムを見る。

「何もない」 クジャムが言う。

シノハが眉を顰めてサラニンとバランガの二人を見る。

「クジャム、正直に言いな」 果実酒をクイっと口に入れるとサラニンが言う。

「クジャムが言うわけないだろ。 俺たちだってハッキリ聞いたわけじゃないんだから。 長に言った、シノハが心配で様子を見に行きたい、だなんてな」 

シノハが驚いて眼を大きく瞠った。

「テメー、根も葉もない事を言ってんじゃないよ!」 殴りかかろうとしかけたその時、新たな果実酒を持ってきた女がビックリして後ずさった。

「おお、驚かせてしまった。 それに我らが居る事で手間をかけてしまう」 差し出された酒の筒を持つ女の手を上からギュッと握る。

「クジャム・・・手を握るのではなくて酒の筒を握るんでしょう」 シノハが大きく溜息を吐いた。

「で、シノハはいつまで居るつもりだ? 明日の申し入れを終わらせると帰るのか?」 サラニンが聞く。

「それは・・・明日になってみなければ分かりません」 眉根を寄せる。

「それはどういう事だ? 申し入れで負けるかもしれないと思っているのか?」

「おい、それは許される話ではないぞ」 

女の手を離しクジャムが話しに入ってくる。 女も大切だが、シノハのこと、己たちの村が教えた者が勝負に負けては話にならない。 村の恥にもなる。

クジャムの後をバランガが女から酒筒を受け取り、「名は何と言う?」 と話しかけている。

「負けようとは思っていません。 ですが、どんな勝負を言ってくるか」 口を引き結んだ。

「我はそれが疑問だった。 あの時どうしてアイツに決めさせたんだ?」 サラニンが言う。

「それは・・・」 少し言いよどんで言葉を続けた。

「我が得意な勝負をして我が勝っても意味がないんです。 ドンダダに優位な勝負をしてそれに勝ってこそ、意味があるんです。 それに申し出をつけるには、それくらい譲らなくては申し出をのまないと思ったんです」

「ふ・・・ん。 ワケありか」 ハッキリといわないシノハの言葉にクジャムが顎のひげを撫でた。

「はい」 視線を落とす。

“才ある者” を我がものにしようなどと考えている事には思いも付かないが、影の『武人の村』 で動いている三人には、シノハがどう言い淀んでも察しが付く。
 
女の名を聞いたバランガがサラニンに目を向け不気味な笑みを作る。 サラニンがそれに口の端を上げて答える。 
バランガとサラニン、二人が見たドンダダとシノハが戦っている時、皆が心配している中、一人口をほころばせていた男。

「シノハ、そのワケとやらを言えないか?」 サラニンが言う。

「それは・・・」 そこまで言うと、口を閉じてしまった。

「言えないか?」 不敵な笑みを作りながらサラニンが更に問う。

「我が村のことならともかく、トンデン村のことですから我が勝手に話すわけにはいきません」

「ふーん・・・」 サラニンが言うと今度はバランガがサラニンより、より一層不気味な笑みを向けてシノハに言った。

「我らが何か知っているとしてもか?」


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