一時期、モームの小説を夢中になって読みふけった、そんな若い頃があった。人間の絆、月と6ペンス、要約すると、コスモポリタンズ、レザーズエッジ、お菓子と麦酒、雨、手紙・・・
特に人間の絆は何度読み返したであろうか、4冊(中野好夫訳 出版当時の新潮文庫は4分冊であった)の文庫本がボロボロになるまで。これほど何度も読んだ本も少ない。
主人公、フィリップが画学生としてパリで生活していたとき、サロンで入選したスキャンダラスなマネのオランピアが画学生の間でよく話題になる。
フィリップ自信もオランピアの絵の前でジョコンダ(モナリザ)を観たいという友人に、彼自身信奉したばかりの革新的見解を滔々と述べ立てる。
君、ジョコンダは文学に過ぎんよ。オランピア一枚さえあれば古い大家連中は一切合切くれてやってしまってもいい。ただ例外はベラスケスとレンブラントとフェルメール。
フリップ(モームといっていいかもしれない)にそう云わしめたオランピアとはいったいどんな絵か、当時私は見たことがなかった。いったいどんな絵なのだろうか?
その後、複製画でオランピアを見、本物はオルセーに存在することも。
数年前、オルセーを訪れる機会があった。何はさておきオランピアを、一目散、だが馬鹿なことだ、いつもあるべきオランピアの壁は空白、小さな複製画と貸し出し中文字が・・・
草上の昼食とは対面したものの・・・
今年のイタリアの旅・・・ナポリのホテルの部屋に入るや、思わずぎょっとする。なんと・・・
それはベッドの上の壁一面にオランピアの模写が描かれていたからである。憧れのオランピア・・・
実際のオランピアのサイズはおよそ130 cm × 190 cm、壁の模写は一回り大きく、さらに左右逆に描かれている。どうして逆に描いたのだろうか?
ナポリの2日間、このオランピアとにらめっこする事になる。(ホテルの壁に描かれたオランピア、写真ではつぶれてしまっているが黒猫もちゃんと描かれている)