歩く・見る・食べる・そして少し考える・・・

近所を歩く、遠くの町を歩く、見たこと食べたこと、感じたことを思いつくままに・・・。おじさんのひとりごと

沢口靖子の“小津の秋”で想いをめぐらす -その3-

2010年01月08日 | 映画の話し
昨日の続きです。

今日は、本筋の明子と園子の話しです。

30年もの間、父を奪った女と、妻と娘を棄てた父を、憎み続ける母と娘。

落ち合う場所に男は現れず、裏切られたと思う女。それでも、30年もの間、どこかで生きているだろ男に、想いを馳せる女。

母が亡くなり、“その女”に会いに行く娘。30年の歳月は、永いのか、短いのか。

裏切られたと思いつづけている女に、駆け落ち場所に向かう途中、病に倒れ亡くなった事を伝え、裏切られたのは“私達”だと告げる娘。

まぁ、そう云うところから、ドラマは展開していくのですが、ドラマッチックとは無縁の普通人としては、こんな人生模様に惹かれるのです。

兎に角です。妻子ある男が、他の女性に、心を寄せ、躰も寄せ、子を孕ませたりするのは、一般的、世間的な常識では、やってはいけない事になっています。

でも、しかし、法律的には、何ら罪には為らづ、お咎めは無いのです。だからと云って堂々とやる行為ではありません、秘かにやるところが・・・・・・ねェ。

でも、いつの世も、不倫はドラマチックで、誰しもが、一度や二度は、自分もと思い、また、思うだけではなく実行してしまう人が後をたたないのです。

不倫は文化だと云った男優が居ましたが、不倫は動物的な本能なのです。まぁ、生物学的の方向に話を進めると、身も蓋も、味気も、何も無く、詰まらなくなるので止めておきます。

詩情あふれる、彩り鮮やかな、美しい蓼科高原の秋を舞台にした、男と女の物語に話しを戻します。

それで、明子の父ですが、観光開発で湿地帯を湖に変える工事の技術者として蓼科を訪れ、園子と出会い恋に落ち、駆け落ちを約束し、叶わままに命が終わる。

それで、映画を見終わり、いろいろ想いを馳せたのですが、明子の父は、自分の死期が迫っていたことを知っていたのでは?と思いました。

事故ではなく病ですから、それなりに自覚症状があった筈ですし、それに人間は自分の死期が近づくと、何となく、それとなく悟るような気がします。

死を意識しながらの叶わぬ恋。ドラマチックです。

湿地帯を美しい湖に変身させ、それを最後の仕事として、美しい自然に包まれ、死んでいきたかった。そこには、美しい女性との物語も必要だった・・・・・・。

そこに、O・ヘンリーの短編小説の文庫本、「最後の一葉」のページに枯葉を挟んで贈った園子。

その文庫本を遺品とて持っていた明子。「最後の一葉」に対する想いは、園子と明子の父とでは、異なっていたと思います。


明子の父は、死んでいった老画家に自分を重ね合わせたと思います。老画家は人生で最高傑作である“一葉”を描いて亡くなり、明子の父は最高傑作の“女神湖”遺して・・・・・・。

女教師の園子の方は、ナレーションで昭和19年に5歳だった語っていたこと、駆け落ちが30年前だったこと、いつから30年前かと云えば、映画の中で“今が”特にふれられていないので、制作年度が“今”と解釈できます。

この映画は2007年の制作ですから、30年前は“1977年”となり、昭和19年(1944年)に5歳ですから、園子の生まれは1939年となります。

そうなると、駆け落ちした時の園子は“三十と七・八歳”と云うことなります。何故こんな年齢計算をしたかと云えば、女性にとって、このあたりの年齢が、かなり微妙だと思うのです。

明子が入浴中に、となりの浴場から、若い男女の睦言を聞いてしまうシーンがあり、


鏡に映し出された、自らの裸身を見つめ、肉体の衰え感じ、不安な表情をするのです。

【このカットで全身のバックショットがほしかったです。沢口さんも44歳ですからねェ~・・・・・・拒否されたのかも?】

求婚をされている明子も、30年前に父を亡くした時、3歳であったことから、園子と父が恋に落ち、駆け落ちをした、微妙な年齢に差し掛かっているのです。

30年前と今では、年齢に対する想いは、かなり異なるかも知れません。30年前の園子は、肉体の衰えに対する焦りは、当然明子以上だったはずです。

いろいろな事を背負い始める、その時、同じ年頃の女としての園子、父を奪った“女”への憎しみは、父が愛した、“生身の園子”と云う女性を目の前にすることで、すこしずつ変化していった・・・・・・、と、思うのです。

ふつうの人生では、なかなか経験出来ない人間模様、“小津の秋”いろいろと、楽しめる大人の映画です。


まだ、話は、すこし、続きます。


それでは、また来週。





コメント (8)
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