ギリシャ神話あれこれ:白雪の悲運

 
 白人の子供の肌は透けるように白い。こんな白い肌ならいいな、とつい思ってしまうくらい白い。
 けれども子供時代を過ぎると、透けるような白い肌は実際に血管が透けて、白いというよりも赤く見える。また紫外線に弱いせいか、雀斑やシミがプツプツと目立つ。……白いっていうのも一長一短だな。
 当人たちは別にそんなことは気にならないらしく、化粧で隠そうともしないし、太陽が燦々と降り注ぐ時期には、爺さん婆さんたちまでノースリーブ、短パンという格好なのが好もしい。
 ……旅先の、ちょっとした観察の一つ。

 ダイダリオンの娘キオネは、「白雪」という名のとおり、雪のような白い肌の美しい乙女だった。ギリシャ神話では美女たちは神々に眼をつけられるのが定石だが、キオネもまた、アポロンとヘルメスの両神から求愛を受ける。
 と言っても、ギリシャ神話では、こうした求愛がロマンティックに展開した試しがない。キオネの場合も例に洩れず、先手、アポロンが老婆に化けて彼女に近づき、油断させてから、後手、ヘルメスが彼女を眠らせて、それぞれ強引に関係を結ぶ、という結末に。

 結果、彼女は身籠って、アポロンの子ピラムモンと、ヘルメスの子アウトリュコスという双子神を産む。

 が、ゼウスの子神たちの息子を儲けたことは、キオネには誇るべき幸運だったらしい。加えて、双子たちはそれぞれ父神の力を受け継ぎ、素晴らしく優秀な青年へと成長する。ピラムモンは竪琴の名手に、一方、アウトリュコスは窃盗の名手に(……おいおい)。
 いつしか思い上がったキオネは、両神を虜にした自分の美貌と、立派な息子たちとに慢心し、あるとき、つい、口を滑らせてしまう。
 私ってばもしかして、アルテミス神より優れているかも、と。

 こういうことは、嫉妬深くて激情的なギリシャの神さまに向かっては、決して言ってはいけない。
 もちろん、狭量でプライドも馬鹿高いアルテミスが聞き捨てるはずがない。躊躇なく百発百中の矢を放ち、キオネの不敬な舌を射抜いて、呆気なく息の根を止めてしまう。

 娘の不幸な死を嘆き悲しむあまり、父ダイダリオンは、パルナッソス山頂から身を投げ、娘の後を追う。
 アポロンは彼を憐れに思い、翼を与えて、彼を鷹の姿に変えたとさ。
 
 L.A.スコウ「キオネの死」。
  ルドヴィ・アーベリン・スコウ(Ludvig Abelin Schou, 1838–1867, Danish)

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