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ギリシャ神話あれこれ:逃れ得ぬ死たち

 
 死は常に人間にとって、最大の関心ごとの一つであるらしい。死は怖ろしいものだというイメージがあるが、私は、死はただ単に、生命が、誕生の際にやって来たと同じところへ帰ってゆくだけのように思う。
 
 ギリシャ神話では、冥王ハデスはいわゆる死神ではない。死の神はハデスとは別の神格で、例によって3つの位相を持ち、3神が一体となって死を司る。
 死の3神は、タナトス(死そのもの)、ケル(死の宿命)、モロス(死の運命)。彼らはいずれも、夜の女神ニュクスの子ら。

 死タナトスは、黒い翼を持ち、黒衣を纏って、剣あるいは鎌を携える。眠りの神ヒュプノスの兄で、ともに冥界の館に住まう。
 タナトスは夜毎、闇の底からヒュプノスを連れ出して、夜のなかを飛翔する。タナトスもまた人々に最後の慰めをもたらす。が、穏やかで柔和なヒュプノスとは異なり、タナトスのほうは、青銅のように憐れみを知らず、冷酷非情な鉄の心をしているという。
 寿命の尽きた人間のもとへと赴き、死者の印にその髪を一房切り取ってから、その魂を冥界へと連れ去る。
 ……ヘルメス神と権能がダブるが、ヘルメスが冥府へと運ぶのは、実は、もっぱら英雄の魂なのだとか。

 こんなふうに冷厳で陰鬱なタナトスだけれど、間抜けたところもある。ゼウス神の命で、シシュポスを冥府へと連れていこうとした際、狡知に長けたシシュポスの口車にまんまと乗せられて、鎖で捕縛されてしまった経験がある。
 また、ヘラクレスに力ずくで負かされてしまって、死者の連行を諦めた経験も。……おいおい、死神。

 死の宿命ケルは、眼に見えず飛翔して人々に取り憑き、死へといざなう。血に染まった紅の衣を纏い、死者の血を啜るという。
 一方、死の運命モロスは、暗黒に潜んで、人々の死を定義し、死に際してその善悪を定めるとされる。
 ……いずれも、明確なイメージを持ちにくい。エピソードもないし。

 画像は、マルチェフスキ「タナトス」。
  ヤチェク・マルチェフスキ(Jacek Malczewski, 1854-1929, Polish)

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