ギリシャ神話あれこれ:ハデス

 
 女の子というのはマセていて、子供の頃、クラスの女子に、「理想の男性を一言で言い表わすと、どんな人?」と訊かれたことがあった。一言っていうのが難しいなー。私は考えて、「他人から、優しい、と言われない人」と答えた。
 私としては、誰彼構わず優しくするのではなく、自分がこれと思った相手にだけ優しくする人、という意味で答えたのだった。が、その女子は思いっきりヘンな顔をして、「ヘンなの~」と言って去っていった。……ヘンって何さ、どこがヘンなのさ。と思ったけれど、結局、彼女が何をヘンと思ったのか、そのヘンを私はどう思っているのか、説明し合う機会はなかった。
 思えば、私って、こうやって徐々に、ヘン、ヘンと思われていったのだと思う。
 
 ハデス(プルートー)は地底を支配する冥界の王。鉱物や植物の種子など、地中の富の守護神でもある。

 ゼウスらが世界を統治することになったとき、彼とポセイドン、ハデスの三兄弟は、全世界を三分し、籤を引いて、自分たちの支配権を決めた。結果、天界をゼウス、海界をポセイドン、冥界をハデスが引き当てた。ハデスは長兄にも関わらず、貧乏籤を引いた不遇の神というわけ。
 それ以来、彼は地下に引っ込んでしまい、ほとんど地上には顔を出さない。そのせいか、神話にもほとんど登場しない。
 
 死者の国を司るだけあって、陰鬱で荘厳なイメージがあるけれど、ハデス自身は悪い奴でも嫌な奴でもない。無愛想ではあっても、残忍でも無慈悲でもなく、ゼウスのように狡猾でも、ポセイドンのように粗暴でもない。どちらかと言うと実直で、彼ら弟たちのように女癖も悪くはない。三兄弟のうちで一番マシだと思う。
 無理やり誘拐した馴れ初めのせいか、妻ペルセフォネには頭が上がらなかったという噂も。不死の男神にしては驚くくらい妻には誠実で、半年以上の里帰りも許すほど寛容。
 
 そんなハデスの数少ないロマンスが、約二つ。
 ハデスは、メンテというニンフ(妖精)を寵愛するが、ペルセフォネはそれを嫉妬し、メンテを踏みつけて草に変えてしまう。メンテは草となってもなお、香り高い芳香を放つという。これがミントの由来で、ハデスの神殿に咲いている。
 ハデスはまた、レウケを見初め、冥界に連れ帰るが、レウケは不死の神ではなかったので、やがて死んでしまう。悲しんだハデスは、レウケを白ポプラに変える。この白ポプラは、エリュシオンの野に植わっているのだとか。
 ……たったこれだけ。

 プルートーは冥王星の名でもある。

 滅多に良い顔を見せない冥王は、私には結構好もしかった。太陽の当たる世界に住めないところがつらいけど。
 
 画像は、アゴスティーノ・カラッチ「プルートー」。
  アゴスティーノ・カラッチ(Agostino Carracci, 1557-1602, Italian)

     Related Entries :
       ペルセフォネ
       ステュクス
       カロン
       ケルベロス
       ヘカテ
       ニュクス
       タナトス
       タルタロス
       エリュシオン
       ゼウス
       ポセイドン
       ヘラクレスの第12の難業
       テセウスの物語


     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 真珠の耳飾の少女 ピアノ・レッスン »