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ギリシャ神話あれこれ:復讐の女神たち

 
 学生のときに読んだ「資本論」で、マルクスは、経済学の分野で、自由な科学的研究に抗う、最も激しく狭小で悪意ある感情を、「私的利害のフリアイ」、なんて表現している。
 マルクス得意の文学的表現は、内容の正否は別として、本人が言わんとしたところをよく伝えている、と思う。フリアイを知らなければ、科学に抗うイデオロギーに対する、マルクスの憎悪は、感じ取れまい。

 が、私は、フリアイに憑かれていたのは、逆にマルクスのほうだったかも、と思う。彼を夢に見たとき、彼は私に、「妻イェニーを通して貴族に、友エンゲルスを通して資本家に復讐した」と言った。そして学説を残すことで、労働者にも復讐した。
 ……ま、私の勝手な解釈。

 エリニュス(フリアイ)は復讐の女神。普通、エリュニエス(=エリニュスたち)は、アレクト(止まらぬ女)、ティシフォネ(殺戮を復讐する女)、メガイラ(妬む女)の3女神をいう。
 クロノスが父神ウラノスの男根を切り落とした際に、吹き出た血が大地ガイアに滲み込み、生まれたのがエリニュスたち。彼女らはティタン神族の血族に属する。
 
 エリニュスたちは正義と秩序、それを冒涜する者への復讐、処罰を司る。彼女らが守護するのは、古代社会で最重要視されていた血縁の掟で、血族間における侮辱や暴行、特に、母親に対するそれら罪科を犯した者を追及し、厳しく罰した。
 古代ギリシャでは、殺された母親の血は、ミアズマという呪いの毒(瘴気)を生み、殺人者とその幇助者を冒すとされた。つまり、この毒がエリニュスらを呼び寄せるというわけ。
 エリニュスらの名を口にすることは、彼女らの関心を引くことになるので不吉とされ、エリニュスらはしばしばエウメニデス(慈しみの女神たち)とも呼ばれた。

 彼女らは異様に怖ろしく醜い姿をしていて(老女の姿だともいう)、髪は無数の蛇となって頭に巻きつき、頭はあるいは犬の形で、黒衣を纏い、手には鞭や松明を携える。黒い翼を持ち、どこまでも執拗に犯罪者を追跡して、あくまで罪科を追及し、責め苛み続けて、容赦なく呵責を与えて狂気に到らせる。
 冥界を住処とし、タルタロスの重罪人を制裁もする。
 彼女らの正義はゼウス神の正義とは次元が異なるため、ゼウスですら彼女らを制御することはできない。

 有名なエピソードとしては、娘イフィゲネイアを犠牲にした王アガメムノンを、その妻クリュタイムネストラが殺害して、娘の復讐を果たしたのに対して、今度は息子オレステスが、母クリュタイムネストラを殺害して、父の復讐を果たした、という話。罪が罪を呼んだ、こんがらかった話だけれど、結局、エリニュスたちは母殺しのオレステスを、どこまでも追いかけまわして、狂気に追い込んだ。
 他にも、故意ではないがオイディプスのせいで、母イオカステが縊死した際にも、エリニュスを呼び寄せたし、父の遺言で母エリピュレを殺したアルクマイオンも、やっぱりエリニュスに取り憑かれて発狂した。

 やっぱり怖いエリニュス。しかも3人だし。しかも老婆だし。

 画像は、シュトゥック「殺人者」。
  フランツ・フォン・シュトゥック(Franz von Stuck, 1863-1928, German)

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