ギリシャ神話あれこれ:オレステスの復讐

 
 ミュケナイ王族の血塗られた復讐劇を総括するのが、オレステスの物語。もちろん私は、これ苦手。殺伐とした復讐譚だからでもあるし、おぞましい復讐の女神たちに取り憑かれるからでもある。が、一番の理由は、オレステスとエレクトラの姉弟の関係が、近親相姦的だから。
 ギリシャ神話の近親相姦は、この姉弟に限ったことではないのだが、この姉弟のモチーフは、後世の文学やら映画やらでやたら繰り返し取り上げられている。これが怖ろしい。例えば、ナチス親衛隊将校を描いた、ジョナサン・リテル「慈しみの女神たち」。このインパクト、今後十年は、私の脳裏から去らないだろう。

 ミュケナイ王アガメムノンの妻であるクリュタイムネストラには、アルテミス神への生贄となって死んだ娘イピゲネイアの他に、エレクトラとオレステスの二人の子があった。

 アガメムノンがトロイアに遠征すると、もともと夫に愛情など持っていなかったクリュタイムネストラは、情欲と権力欲とから彼女に言い寄ってきたアイギストスを情夫とした。アイギストスはクリュタイムネストラが愛した前夫タンタロスの弟に当たる。

 クリュタイムネストラは死んだイピゲネイアだけは溺愛していたが、それはイピゲネイアがアガメムノンではなく、前夫との娘だったからだという。なら、アガメムノンとの子であるエレクトラとオレステスを、クリュタイムネストラが愛さなかったとしても仕方がない。
 父王の留守中、館の主となった母と情夫の影で、エレクトラとオレステスの姉弟は、互いに寄り添い合って暮らしていたのだろう。 

 凱旋したまさにその夜に父王が殺されたとき、ミュケナイを継ぐ後嗣だった幼いオレステスは、姉エレクトラの手引きで、血縁に当たるポキスの王ストロピオスのもとへと逃れる。エレクトラは、王の息子ピュラデスの許嫁だった。

 To be continued...

 画像は、F.レイトン「アガメムノンの墓前に立つエレクトラ」。
  フレデリック・レイトン(Frederic Leighton, 1830-1896, British)

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ギリシャ神話あれこれ:アガメムノンの暗殺(続々)

 
 予言の力を持つカッサンドラは、自らの運命を知り、ただ一緒に死ぬために、故郷からこの異国まで連れて来られた不運を、意味不明な言葉で呟いて、なかなか館に入ろうとしない。だがとうとう観念すると、自らを弔う歌を口ずさみながら、館へと入っていく。

 館ではクリュタイムネストラがアガメムノンに長旅をねぎらい、湯浴みを勧める。今度も妻にそそのかされて、湯浴みするアガメムノン。
 そこへクリュタイムネストラが忍び寄り、衣を投げ網のように絡ませて、夫の動きを封じたところを、あるいは、首と袖を閉じておいた衣を渡しておいて、夫が着衣するのに手間取っているところを、剣(あるいは斧)でずたずたに切り殺す。カッサンドラもまた、夫の道連れにと、殺してしまう。
 そして血に濡れた剣を手に、これは娘イピゲネイアの復讐だ、正義は果たされたのだ! と宣言する。

 アガメムノン、凱旋当夜に呆っ気ない最期。自業自得とはいえ、お気の毒。

 クリュタイムネストラは、まだ幼い息子オレステスもまた、生かしておけば後々の災いとなろう、と殺害を図る。が、娘であるエレクトラが一足先に、弟オレステスを下男に託して、ミュケナイを落ち延びさせる。

 王謀殺の凶行の後、王妃クリュタイムネストラは、晴れて夫となったアイギストスをミュケナイの王とする。
 が、エレクトラの手引きによって逃げ延びたオレステスが、やがて成長し、実の母を殺して、父の復讐を果たすのだった。

 ……こうやって延々と、復讐の復讐、そのまた復讐が続いていく。げに怖ろしや、怨嗟の連鎖と継承かな。

 画像は、J.コリア「殺害を終えたクリュタイムネストラ」。
  ジョン・コリア(John Collier, 1850-1934, British)

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