レーゲンスブルクの天使と魔女(続々々々々)

 
 そんな帰りの道々のこと。

 夕闇のなか、黒い丈長のコートを来た女性が二人、これまた黒いブーツの踵をコツーン、コツーンと響かせながら、私たちのぴったり前を歩いていく。一人は大柄な女性で、もう一人は小柄な女性なのだが、それ以外はそっくり同じ服装をしている。
「何だか魔女みたいだね」と相棒、どうせ日本語が通じるわけがないと思って、声を落とす配慮を省いて、失礼な感想を述べる。

「前からも見てみよう」
 私たちと彼女たちとの歩調はほとんど同じだったので、相棒、私を引っぱって不自然に歩調を速め、俄かに走るように彼女らを抜き去った。追い抜きざま、「アーベント!」と声をかけて、彼女らのほうを見る。

 街灯に照らされた二人の魔女の姿を、私もはっきりと見た。もちろん人間の顔をしていた。が、眼には黒いアイラインを大胆に引き、黒いアイシャドウまでかけて、唇には黒いルージュを塗っている。その黒い眼と唇とでニッと不敵に笑み、穏やかな声で「アーベント」と返してきた。
 ゴシック調に統一されたメイク、そしてファッション。街灯の光を滑らかに反射するコートの皮の質感、光をキラッと跳ね返す、無数のごつい鋲、そして二人が歩くたびにチャリッ、チャリッと鳴るのは、装身具かと思っていたら、コートに飾られた鎖だった。
 あれってなんだか、ついさっき見た憶えがあるよ……

 案の定、黒尽くめの二人はユースの門のほうへ曲がり、部屋に入ろうとするところで再びばったり出くわした。ああ、私の同室の魔女たち!
「仲好くしてもらうんだよ!」
 部屋まで送ってくれた相棒、面白がって、背を押して私を部屋へと押し込んだ。

 To be continued...

 画像は、レーゲンスブルク、旧市街、ドン・ファン像。

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