世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
海の男の海景
一昨年の夏、初めて軽井沢に行った。バスのなかでは、酔わないように眼をつむっていた。そしてバスを降りて眼を開けたとき、別世界に来たような気がした。
そんなふうに感じたのは、別に、軽井沢がリゾートだからじゃなくて、樹木の印象が、高地独特のものだったからだと思う。もう一度くらい行ってみたいなー。
ところで、このときのお目当ては、メルシャン美術館の「南仏の光を描いた画家たち展」だった。ウイスキー蒸留所に併設された美術館で、モルトウイスキーの樽貯蔵庫を改装したお洒落なもの。ワインもちゃっかり試飲できる。
お土産にワインケーキとワインキャンディーを買って、芝生の庭をご機嫌に散歩しながら、白樺林から見える浅間山に、「噴火しないかなー」なんて言ったら、その2週間後にホントに噴火した。
けど、箱根と同様、美術館には観光ついでにやって来る人たちばかりで、鑑賞態度はチョベリバ。
で、このとき私は、シニャックって結構いいな、と思った。ヨットがごちゃごちゃと係留されている、賑やかな港の風景も、絵になるもんだな。
ポール・シニャック(Paul Signac)は、スーラと並ぶ新印象派の代表的画家。パリの裕福な馬具商人の家に生まれ、モネの絵に感化されて絵の世界に入った。その後、アンデパンダン展でスーラに出会い、新印象派の点描技法を追求した。
新印象派と言えば、やはりスーラ。で、スーラの影に隠れて、あまり人目に立たないシニャックだけれど、彼がいなければ、新印象派絵画はここまで一つのトレンドとはならなかったように思う。寡黙で理知的なスーラとは対照的な、交際好きで元気満々のシニャックは、若くして死んだスーラのあと、新印象派をリードした。が、スーラに取って代わろうなんてことはしない。しゃかりきでもない。
シニャックは海を愛し、何艘も船を持ち、自らヨットを操舵して、波を蹴立てて海を旅した。彼の描く絵は海景。ヨットや灯台や波止のある港を描いた。
結婚すると、当時はまだひなびた漁村だったサン・トロペに移り住んだ。彼の海の絵は、やはりサン・トロペのものが多い。
シニャックの、最もシニャックらしい絵は、厳格な新印象派の点描のものではなく、方形の大きな、まるでモザイクのような点描のもの。そうやって、テン、テン、テン……と描いた絵は、陽気で奔放な、海を愛したフランス人らしい絵となっている。シニャックの絵を観ると、南仏の海に行きたくなる。
シニャックって、善い奴だったんだろうな、と思う。
画像は、シニャック「緑の帆」。
ポール・シニャック(Paul Signac, 1863-1935, French)
他、左から、
「港の家並」
「旗をつけたマストの帆船」
「大運河、ヴェネツィア」
「ノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院、マルセイユ」
「日傘を持った女」
Bear's Paw -絵画うんぬん-
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