チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
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第19話 支店長令嬢 えみ子ちゃん

2006年12月12日 | チエちゃん
 チエちゃんの村の金融機関といえば、農協と郵便局を除くと、1店の信用金庫です。
 ここの支店長さんの娘、えみ子ちゃんはチエちゃんのクラスメートでした。
色白で、クリクリとした黒目勝ちの大きな目、整った鼻筋のほんとに可愛い子でした。
着ているお洋服は、フリルの付いたブラウスやワンピース、いつも白いタイツをはいていました。
言葉のアクセントも、チエちゃんたちのようなズーズー弁ではなくて、東京弁でした。
えみ子ちゃんはお嬢様なんだなあと、思うチエちゃんでした。
 でも、えみ子ちゃんは気取ったところやお高くとまっているところは全然ありません。結構、おてんばさんで、新任の担任の先生に「おぎジジイ」とか平気でニックネームをつけるのも彼女でした。
天真爛漫なえみ子ちゃんです。

 ある時、チエちゃんはお友だち3・4人で、えみ子ちゃん家に遊びに行きました。
すると、おやつにケーキとジュースが出てきました。
うわあ、やっぱりえみ子ちゃん家はお金持ち。
ケーキなんて、クリスマス以外に食べたことがありません。
えみ子ちゃんのお母さんはキチンとお化粧をして、スカートをはいています。
チエちゃんのお母さんは口紅一つつけず、いつも農作業着を着ています。スカートなんて滅多にはきません。
きれいなお母さんがうらやましいなあ。

こんな事もありました。
使用済み預金通帳に「PAID」とパンチで小さな穴を開けた、そのパンチ屑がほしくて、お休みの日にえみ子ちゃんと信用金庫に行きました。
お父さんが休日出勤していたのかもしれません。
えみ子ちゃんはまるで自分の家のようにスイスイと中に入って、こっちにおいでと手招きをします。
そうして、チエちゃんは初めて裏口から信用金庫の中に入りました。
高い天井、鈍く光る金庫の大きな扉、誰もいないカウンター、お休み日の薄暗い店内はシーンとして不気味でした。
それでも、えみ子ちゃんのお父さんからパンチ屑をたくさんいただいて家路につきました。
今では絶対有り得ないことだと思います。たとえ支店長の家族であろうと部外者を立ち入らせることなんて。お父さんも信用金庫には内緒だったのかもしれませんね。

 5年生になった2学期、えみ子ちゃんはお父さんの転勤で、突然転校することになりました。
最後の日、えみ子ちゃんはクラスのみんなの前で、泣きながらあいさつをしました。
そして、仲良しグループのみんなとも、きっといつか、絶対、絶対、会おうねと約束をしてさよならしたのでした。