(原題:Chaos )2001年フランス作品。若い娼婦と平凡な主婦がマフィア相手に大立ち回り。コリーヌ・セロー監督による本作はサスペンス・コメディの形式を取ってはいるものの、近作の「サン・ジャックへの道」とは違い、この頃はフェミニズム的視点を崩してはいない。
ヒロインの二人は社会的ポジションこそ違うが、抑圧されているという事実は共通している。その「抑圧している主体」は、片や売春組織、片やロクデナシの夫とバカ息子、つまりは「男社会」の暗喩だ。そんな二人が手を組んで「抑圧者」に一杯食わせる。なるほどこれは痛快だ。ただし、その手法がサスペンス・コメディの図式とマッチしていないのも確か。
作者のフェミニズム指向を満足させるためか、出てくる男ども(ダンナや息子)をとことん低レベルに描くのはいいとして、娼婦側の事情を必要以上にシリアスかつ複雑に語っているのは明らかに作劇のバランスを欠く。言うなればこの部分だけが“社会派作品”になっていて、娯楽映画の外見と合わないのだ(観客によっては「イスラム差別だ」と取る可能性もある)。もっと単純化すべきであった。
とはいえ楽しめる映画にはなっているのは、主婦役のカトリーヌ・フロのホンワカした存在感に尽きる。特にマフィアの構成員を後ろから殴りつける場面は爆笑の渦。フランスの女優は本当に個性豊かだ。