元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「レポゼッション・メン」

2010-07-13 06:37:12 | 映画の感想(ら行)

 (原題:REPO MEN)荒唐無稽なお手軽SF活劇ながらけっこう楽しめたのは、世相を上手く取り入れているためだろうか。近未来、人工臓器によって健康と延命が可能になった世界。臓器の提供元であるユニオン社は“顧客”に途轍もない額のローンを課し、返済が滞るとレポゼッション・メンという臓器回収人を送り込んで強制的に人工臓器を取り立てる。もちろん回収された側は御陀仏だ。いわば合法の殺人請負人である。

 ここで疑問に思うのは、医療に多大な貢献をするはずの人工臓器が、保険の対象外になっていることだ。フツーの国では考えられないが、国民皆保険が確立していないアメリカではそれも頷ける。言葉巧みにローンを組ませて非情な手段で回収するその手口はまるで闇金融だが、当然のことながら一方で臓器を簡単に買える層も存在しており、この二極化は実際の格差社会の暗喩であろう。

 主人公のレニーは凄腕の回収人だが、勤務中の事故によってユニオン社のハイエンド商品である人工心臓を埋め込まれるハメになる。この会社には“労災”という用語も存在しないらしいが(笑)、ここにもまた経営者以外の従業員は(どんなに有能でも)骨までしゃぶり尽くされるというシビアなアメリカ社会への皮肉がある。

 レニーは知り合った女性多重債務者と共に真実を探るため、ユニオン社に対して宣戦を布告する。そのプロセスは徹底してエゲツない。冒頭から描かれる“臓器回収場面”もリアル描写で流血シーンの苦手な観客はドン引きしてしまうが、後半のバトルシーンに至っては華麗な“血みどろショー”が展開(爆)。次々と襲いかかる回収人達を鮮血の海に沈め、終盤にはさらにエグい描写が手ぐすね引いて待っている。

 ただし、ミュージック・ビデオ出身という新鋭ミゲル・サポチニク監督のテンポの良い演出により、陰惨な感じは希薄だ。それどころか明るくポップな印象さえ受けてしまう。使われる楽曲もかなりセンスが良く、スタンダード・ナンバーから最新ポップスまで、画面の状況に応じて上手く選択されているのには感心した。

 ラストにドンデン返しがあるが、これは勘の鋭い観客ならば途中で気が付くだろう。しかし、そうと分かってはいてもこのオチには思わずニヤリだ。無いよりはずっと良い。

 主演のジュード・ロウは肉体アクションもこなしてかなり頑張っている。フォレスト・ウィテカーは相変わらず海千山千の食えない野郎を好演。「ブラックブック」のカリス・ファン・ハウテンも出ていて、したたかな味を見せる。秀作でも何でもないが、肩の凝らない(ちょっと苦みが利いた)娯楽編としての価値は十分にある。
コメント
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