元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「クロッシング」

2010-07-07 06:22:51 | 映画の感想(か行)

 (英題:CROSSING)脱北者という題材はセンセーショナル性が高いのだが、かなりの違和感を覚えてしまう。これはたぶん、重いテーマを扱っているにもかかわらず、多分にいわゆる“韓流ドラマ”の方法論が混入しているからだろう。

 主人公(チャ・インピョ)は昔サッカー選手だったが、今はしがない炭鉱夫。貧しいながらも何とか暮らしていたが、妻(ソ・ヨンファ)が重病に罹り、特効薬を得るために国境を越えて中国に行くしかない状況に追い込まれる。必死の思いで鴨緑江を渡った彼だが、ひょんなことから亡命グループに組み入れられ、韓国で暮らすハメになる。これでは薬を買って北朝鮮には戻れない。

 その間に妻は病死。11歳の息子(シン・ミョンチョル)は父親を追って脱北しようとして捕まり、収容所に入れられて辛酸を嘗める。やがて市民活動組織の手引きによって息子は助け出されるが、さらなる苦難が待っていた・・・・という話だ。

 韓国映画得意の“不治の病”というモチーフが挿入され、舞台が北朝鮮に始まって中国各地、韓国、さらにはモンゴルまで不必要に広がり、出てくる連中は感情過多の演技表現ばかり。浪花節的な音楽がそれを盛り上げ、親子の思い出のメタファーとなる“雨の描写”をこれみよがしに強調。

 ハッキリ言って、これはテレビドラマ(お涙頂戴モード)のノリではないか。もっと突き放した、ドキュメンタリー・タッチで迫った方が対象を的確に捉えられたはずだ。監督のキム・テギュンは元々「火山高」とか「彼岸島」などのお手軽な娯楽編の作り手であり、こういう硬派なネタをうまくこなせる人材だとは思えない。正攻法のアプローチが可能な堅実派の演出家を起用すべきだった。

 もう一つ気になったのは、登場人物の誰も北朝鮮当局に対する批判を口にしないことだ。主人公は何とナショナル・チームの一員だった。それがおそらくはワールドカップ予選で敗退したため、炭坑送りになったと思われる(実際にそういう事実はある)。いくら負けたとはいえ、国の威信を賭けて試合に臨んだ人材を無惨に潰してしまう北朝鮮の狼藉ぶりには呆れるが、要するに悪いのは政府であり、本人や家族には全く非はない。

 しかし本作では北朝鮮への具体的な悪口は存在しないのだ。この忍従さが朝鮮民族の特徴だと言われれば全く身も蓋もない話なのだが、もしも“北”および関係者への配慮から斯様な処置が取られたとするならば、いったい何のために映画を作ったのか分からない。

 残念ながら、この作品にはテーマをとことん追求する覚悟に欠けている。ヘヴィな問題提起を期待していると、肩透かしを喰らうことになるだろう。
コメント
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