元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「音のエジソン」のシステムを試聴してみる。

2010-07-15 06:43:28 | プア・オーディオへの招待
 先日電源タップを購入した福岡市のオーディオ工房「音のエジソン」のオーディオシステムを試聴したので、その感想を書いてみたい。

 ここの主宰者はCDをあまり信用していないらしく(店内にもCDプレーヤーはない)、試聴はアナログプレーヤーにておこなった。最初は売れ筋だというスピーカー「409システム」を中心とした組み合わせで、アンプはオリジナルの真空管式、レコードプレーヤーはTRIO(現KENWOOD)の古い機種(定価は7,8万円ぐらい)、カートリッジは「音のエジソン」謹製のものだ。

 まず聴いたのは60年代ジャズの代表的アルバム、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」。このディスクはショップやフェア会場などであらゆるシステムによって鳴らされており、私もSHM-CD盤を所有しているのだが、この「音のエジソン」モデルは今まで聴いたことのないテイストを持っている。端的に言ってfレンジ(周波数帯域)は狭い。しかし、限られたレンジでの情報量の大きさおよび濃厚な音像の捉え方は、強い印象を残す。音色も(国産機には珍しく)明るい。

 二枚目に聴いたのは60年代に録音されたクラシック(管弦楽曲)のレコード。これも印象は同じで、各音像が実に生々しい。サウンドは前に出てくるのだが、某国内大手のスピーカーみたいに“出っぱなし”ではなく、それぞれの楽器が距離感を伴って迫ってくるので、有機的な空間表現を可能になっている。



 そして圧巻は“モノラル音源も聴いてみましょうか”と店主が取り出した古いジャズヴォーカルのレコード。このサウンドには私も思わず“アッ!”と声を上げそうになった。音場の奥行きが実に深い。モノラル音源にだって“音場”というものが存在するのだということをハッキリと認識した次第。

 次に試聴したのは同社のハイエンド機種である「プロミネント」。繋げるアンプはやはりオリジナルだが、先ほどのモデルとは違う上級機種。プレーヤーはガラードのターンテーブルとSAECのトーンアームを、自家製の木製キャビネットに装着したものだ。

 こちらのまさに“横綱相撲”といった感じだった。「プロミネント」は見た目も音も恰幅が良く、決してレンジ感と音色は現代的ではないのだが、その出方はハイスピードである。特に古い演歌のレコードなんかを鳴らすと鮮烈極まりない展開が味わえる。

 ただし「プロミネント」は126万円という高価格であり、“この値段ならこの音も当たり前か”という評価も出来ないことはない。対して「409システム」はペア15万円強で、音はもちろんサイズや仕上げの良さを勘案すれば、かなりコストパフォーマンスは高いと思う。スピーカーの能率(アンプの出力に対してスピーカーが得られる音圧の割合)も97dBとかなり高く、小出力の真空管アンプでも朗々と鳴る。

 これらのスピーカーに使われているユニットは米国Electro Voice(EV)社のものだ。EV社の創立は1927年と古く、現在まで主に業務用スピーカーの製造を手掛けてきた。ここの工房では数十年前に作られたEV製のヴィンテージ品を採用しているらしい。ハッキリ言ってそんな昔のユニットは経年劣化でボロボロになっているのではないかと思ったのだが、店主の話だと長年の使用に耐えうる製品も存在するのだという。



 少なくとも「プロミネント」のユニットは相当な年代物だということは確認出来る。大昔のユニットでもエンクロージャー(スピーカーの箱)とネットワークを工夫すれば今でも通用するということは、スピーカーというものは本当に進歩しているのだろうかという疑問が湧いてくるが、店主はそれを見透かしたように“スピーカー自体は進化していない(場合によっては退化していることもある)”とのコメントを残してくれた。

 最後に、今年中にリリース予定だという普及価格帯のステレオカートリッジの試作品を聴かせてもらった。カートリッジ単体の音の見極めというのは難しいものだが、少なくとも手堅く安定性のある音が出てくることは保証されると思う。発売に当たっては10万円を大きく割り込む価格設定にしたいそうで、店主によれば“オルトフォンやオーディオテクニカの同価格帯の製品を大きく上回るクォリティに仕上げる”とのこと。楽しみに待ちたい。

 「音のエジソン」のサウンドポリシーは個性的だ。古い部材を活用し、レンジを欲張らない代わりに密度の高い音空間を提供するという方向性は、広帯域化と新素材開発に余念がない昨今のオーディオのトレンドとは相容れないものだ。当然のことながら、聴き手を選ぶ。しかし、一度この音が気に入れば、まさに“一生もの”になる可能性も大きい。

 有名メーカー品だけがオーディオではない。こういう濃いキャラクターを持った業者も存在するということは、斜陽のこの業界にあっては一つの“救い”になっているのかもしれない。
コメント
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