元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「必死剣鳥刺し」

2010-07-17 07:01:08 | 映画の感想(は行)

 もうちょっと演出テンポを速めた方が良い。監督の平山秀幸はかつてのプログラム・ピクチュアの作り手のような実直さはあるが、観客をグッと引き込む良い意味でのケレンに欠けている。ここで言うケレンとはいわゆる“作家性”のことだけではない。スピードとスリルを重んじる演出スタイルも含まれる。平易さが要求されるホームドラマ等では奇矯なテクニックは必要ないのかもしれないが、派手なチャンバラも展開する藤沢周平原作の時代劇では、あまりマッチしているとは思えない。

 映画は海坂藩の主の愛妾を中堅武士の兼見三左エ門が刺殺するシーンから始まる。それ移行、彼のその行為の背景を頻繁なフラッシュバックの形で再現し、現在の時制と併走させる。伊藤秀裕と江良至明の手によるこの脚本の構成は明らかにトリッキィだが、根が堅実な平山監督は正攻法にシナリオを追うことばかりに腐心し、面白味がまるでない。

 重要でないと思われる箇所は思い切ってサッと流し、反対に大事なところは濃い目の味付けで迫るとか、作劇にメリハリをつければ演出リズムも随分と弾んだものになったはずだ。ところが平山は何の工夫もなく説明的シークエンスを流すのみ。結果として、終盤を除いた上映時間のほとんどが平板な展開で埋められているという状況に陥ってしまった。

 有り体に言ってしまえば、この映画は小林正樹監督の快作「切腹」にどこか通じるストーリーを持っている。あの作品での小林監督の仕事ぶりはどうだったかといえば、ホラー映画と見まごうばかりのハッタリ演出の釣瓶打ちである。この手のネタはそんな具合に大風呂敷を広げないと求心力が出てこないと思うのだが、どうして今回はマジメ一徹の平山監督が起用されたのか、プロデューサーの意図がさっぱり見えない。

 さて、速攻で斬首されると思った三左エ門だが、どうしたことか軽い刑罰で済み、懲役明けには藩の重要な仕事まで任せられるようになる。通常、こうした経緯には何か裏があると勘付いて当然だが、本人も当たり前のように気付いているはず・・・・と思ったら、そうでもなかったらしい(呆)。

 ラスト近くでは主人公の憤怒が爆発して血の雨が降るのだが、実直にシナリオをこなした割にはあまり納得できる話の段取りが出来上がっていないため、カタルシスはそれほどでもない。剣戟シーン、および三左エ門の必殺技の“鳥刺し”が炸裂する場面は盛り上がるが、映画そのものの低空飛行ぶりをリカバリーするほどではなかった。

 主演の豊川悦司は好演。ヒロイン役の池脇千鶴、悪代官然とした岸部一徳の演技も良い。撮影も音楽も万全だと思う。ただし、それらが映画自体の価値を押し上げるには至っていない。もうちょっと練り上げて欲しかったというのが、正直な感想である。
コメント
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