元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジョゼと虎と魚たち」

2010-07-27 06:33:53 | 映画の感想(さ行)

 2003年作品。平凡な大学生(妻夫木聡)と両足の不自由な少女(池脇千鶴)との出会いと別れを描いた犬童一心監督作。田辺聖子の原作を渡辺あやが脚色している。

 健常者と障害者との恋愛といえば「ふたりだけの微笑」や「愛は静けさの中に」あたりを思い出すが、本作の秀逸な点は(冒頭のモノローグが示すように)すでに終わった恋を主人公が振り返るという設定になっていること。つまり二人が出会うプロセスよりも別れに至った顛末を回想の中でクールに捉えることにより、彼らの切ない胸の内を具体的に描出することに成功しているのだ。

 主人公がぶっきらぼうで自閉気味の彼女の心を開かせ、自然体に恋愛関係に移行してゆく過程は微笑ましいが、そんな二人でも時が経って世間のしがらみに耐えられず別離を選択せざるを得ない状況に追い込まれる。感情を声高に表現することもなく、差別だ何だといった「雑音」もすべて捨象し、淡々と別れの手順を踏んでゆく二人を作者は冷静に、そして共感を込めて見つめる。

 二人が最初で最後の旅行に出掛ける場面はこの映画のクライマックスで、別れを悟った彼らが表面的には明るく振る舞い、しかし屈託からは逃げられず、海の底を模したラブホテルの一室で想いを巡らす場面は、見ていてたまらない気持ちになる。

 それぞれが自分の道を歩き出すラストも、哀しいけど爽やかな感動をもたらす。主演の二人は好演。特に池脇の頑張りには目を見張らされた。彼女の代表作の一つである。「くるり」による音楽も要チェックだ。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする