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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ニューヨーク,アイラブユー」

2010-04-04 07:06:59 | 映画の感想(な行)

 (原題:New York, I Love You)密度が低く、散漫な印象を受ける。斯様に面白くないのは、オムニバス形式であるにもかかわらず無理に一本の映画としてまとめようとした製作者の姿勢に問題があったのだと思う。

 2006年に作られたパリを舞台にした短編集タイプの映画「パリ、ジュテーム」(私は未見)をプロデュースしたエマニュエル・ベンビイが、ニューヨークを舞台に同じようなコンセプトで作った短編オムニバス映画だが、世界中から集められた10人の監督の顔ぶれが多彩だ。イヴァン・アタルやアレン・ヒューズ、チアン・ウェンにシェカール・カプール、日本からは岩井俊二が参加している。ところが、それぞれに個性的な作風を持つ彼らのフィルムを寄せ集めているために、各シークエンスごとのカラーが違いすぎるのだ。

 大都市を舞台にしたオムニバス映画の代表作として思い出すのは65年製作のフランス映画「パリところどころ」である。プロデューサーのバルベ・シュローデルは、エリック・ロメールやジャン=リュック・ゴダールをはじめとする6人の有名監督のそれぞれの持ち味を十分発揮させるために、6本を完全独立させた。ただし各作品に対する精査は怠らず、総花的な出来に終わらせないだけの最低限のアウトライン(パリの空気感の表現など)はしっかりと設定されていたように思う。

 対してこの映画は持ち時間一人あたり10分程度という建前はあるが、実際は要領を得ない一本の映画の各パーツを10人の作家に“外注”したような印象しか受けない。エンドタイトルにおいて、次回作として同じコンセプトで上海を舞台とした映画が製作されるようなことが書いてあったが、この調子ならば観ることはないであろう。

 とはいえ、“10作品”の中でも気になったものもある。それは、インド人の宝石商と結婚を控えたユダヤ系の若い女が店先で会話するシーンを綴ったミーラー・ナーイル監督によるエピソードだ。人種はもちろん、宗教が異なるせいで考え方のコンセプトがまるで異なる二人が、彼女の複雑な境遇を思いやるうちにふと心を寄せ合うあたりの心理描写が上手い。長編映画へと膨らませることも可能なネタであり、近年あまり気勢の上がらない作品ばかりを撮っているナーイル監督としても“会心作”になったのではないだろうか。

 ただし、このパートのヒロインを演じたナタリー・ポートマンがメガホンを取ったエピソードは軽すぎてイマイチだ。名の知れた監督たちに混じって彼女のような“あまり実績のない者”までもが顔を出すというのは、あまりスマートな図式だとは思えない。
コメント
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