元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「NINE」

2010-04-13 06:57:06 | 映画の感想(英数)

 (原題:Nine)つまらない。そもそも元ネタになったフェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」(62年製作)を私は全く評価しない。新作のアイデアが出なくて延々と悩んでいるだけの演出家の話など、どこが面白いのかと思ってしまう。とはいえ「8 1/2」はリアルタイムで観れば楽しめたのだろう。当時傑作を連発していたフェリーニが、一種のシャレのつもりで撮った怪作として大いにウケたことは想像に難くない。

 ところがこの手の映画は賞味期限が切れるのが早く、「8 1/2」にリバイバル上映で接した当方としては寒々とした気分を味合うばかりだった。だから、いくらダンスと楽曲を「2分の1」だけ増やして「9」にしたブロードウェイ版がヒットしたとはいえ、ロブ・マーシャル監督がわざわざ映画にする題材なのかは疑問の残るところである。

 それでもミュージカル部分が見所たっぷりならば評価出来るのだが、これがどうも低調なのだ。ハッキリ言って、聴くに耐えうるナンバーはケイト・ハドソンが歌う「シネマ・イタリアーノ」のみ。あとはどうしようもない駄曲ばかりである。良い曲がほとんどないミュージカルなど、観るに値しない。加えて、歌い手も全然パッとしない。確かにソフィア・ローレンやペネロペ・クルスなど豪華女優陣を用意して見た目のゴージャス感は出ているが、彼女たちはしょせん“俳優”である。断じて“歌手”ではない。

 もちろんブラック・アイド・ピーズのヴォーカルでもあるファーギーはプロとしての実力を発揮していたし、ケイト・ハドソンも健闘してはいたが、あとは素人に毛の生えたようなレベルだ。これではまるでテレビの“スター隠し芸大会”と同じではないか。知名度よりも歌唱力、つまり“演技も出来るシンガー”を連れてくるべきだったのだ。それが無理ならば、吹き替えの方が数段マシである。

 また、どうして主演がダニエル・デイ=ルイスなのか分からない。頭のてっぺんから爪先まで“英国人そのもの”である彼は、どう逆立ちしたってイタリア人には見えないのである。本来この役はハビエル・バルデムが予定されていたが、彼が降板したためデイ=ルイスにお鉢が回ってきたらしい。完璧主義者のデイ=ルイスがどうしてこの役を引き受けたのか不明だが、明らかに不本意な役どころであることを本人も自覚していたような仕事ぶりで、そもそもミュージカルなのに彼自身が歌うシーンもないのだから呆れてしまう(元ネタにないからというのは、映画の完成度を求める意味では理由にもならない)。もしも舞台版と同じアントニオ・バンデラスが主演だったら、もうちょっと盛り上がったはずだ。

 マーシャル監督の前作「シカゴ」に見られたような思いきった映像的仕掛けもなく、ストーリーの面白さなんか求めるのは筋違い。往年のMGMミュージカルのような楽しさなど、期待する方がおかしい。結果として無茶苦茶に退屈な2時間を過ごすハメになってしまった。観る価値はあまり無い。
コメント
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