元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マイレージ、マイライフ」

2010-04-08 06:54:28 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Up in the Air )突っ込みどころが多い作劇ながら、共感を呼ぶドラマに仕上がっているのは、主人公の造型の巧みさ故だろう。一年のほとんどを出張で過ごすライアンは、全米の企業に乗り込んでいって社員にリストラを告げる専門エージェント。しかも、彼は一匹狼ではなく“リストラ宣告会社”の一員なのである。

 クビの通知ぐらい自分のところの会社でやれと言いたいが、アメリカではこんな職業も成立するらしい。つまり、ヨソの人間に頼まないと従業員に重要なメッセージも伝えられないほど、意思疎通が機能不全に陥っているビジネス現場があまりにも多いということだろう。昨今、リーマンブラザーズをはじめとして自動車メーカーなどアメリカの大手企業の破綻が報道されているが、いくら景気動向が左前になろうと伝統も実績もある会社が簡単に経営危機に陥ってしまうのは、案外この“社内コミュニケーションの不在”に原因があるのかもしれない。

 従業員を大事にしない会社は顧客をも軽視する。経営と現場との乖離が大きくなり、仕事の方向性がまったく見えなくなった挙げ句、気が付いたときには崖っぷちに追いつめられている。そういう風潮に“リストラ宣告人”の立場から切り込んだことは本作の手柄だと思う。

 ライアンはクビを宣告される人間の立場をあえて考えず、淡々と合理的に職務をこなす。留意していることといえば、逆ギレした相手に対する“危機管理”ぐらいだ。年齢は中年に達しているが結婚はしておらず、そもそも誰かに対して恋愛感情を持つこともない。彼の唯一の楽しみは、マイルを貯めることだ。

 しかし、こういう生き方は彼の本意ではないのである。いったいどういう経緯で今の仕事に就いたのか分からないが、とりあえず職務に専念するためにあえて人間性を封印している。それが自分と似たような価値観を持つ(ように思われた)同業他社の女性職員や、合理化案を引っ提げて乗り込んできた女子新入社員との出会いにより、自我が揺さぶられて形振り構わぬ“孤独の解消”に邁進してしまうあたりが、何とも切なくて観る者の共感を呼ぶ。

 とはいえ、冒頭に述べたように筋書きには不自然な点もある。くだんの新入社員がこの職種を選んだ理由が分からないし(恋人を追ってきたというのは説明になっていない)、彼女が提案するオンライン・システムも陳腐極まりない。意識している異性に会いに行くシークエンスも前振り不足で唐突に過ぎる。全体的に予定調和の面が強調されて、ストーリーの面白さはあまり表に出ない。

 しかし、ジェイソン・ライトマンの演出は前作「JUNO/ジュノ」よりも語り口に進歩のあとが見られ、主演のジョージ・クルーニーの存在感も上手く引き出し、スムーズにラストまで話を繋げている。ベラ・ファーミガとアナ・ケンドリックの女優陣も魅力的だ。空港サービスの上手い使い方や、出張の心得など、ビジネス面でも役に立ちそうなネタが満載(笑)。観賞後の満足感も高いライト・コメディの佳篇だと思う。
コメント
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