元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「清作の妻」

2010-04-27 06:57:25 | 映画の感想(さ行)
 昭和40年作品。明治時代末期の山奥の寒村。この村の出身である母親に連れられて移り住んだ若い女と、若い兵士との不運な結婚生活を描く増村保造監督作。吉田絃二郎の同名小説を新藤兼人が脚色を担当している。

 増村監督らしい、力のこもった密度100%の作品だとは思うが、私は主人公たち二人の破滅がどうだというより、村人たちの筋金入りのボンクラさ加減が目に付いた。チラシには「反戦映画」とあるけど、それは違う。戦争があろうがなかろうが、ヒロインは疎外され、清作は浮いたままであったはずだ。それどころか「お国のため」というアホみたいな単純な価値観を植え付けた方が、何も原理原則を持たないボンクラどもが野放し状態になって好き勝手振る舞うよりは、いくらかマシなのかもしれない。

 ボンクラ達は自分たちのことを棚に上げて異分子を排斥し、欲求不満のはけ口にする。清作にとって不幸だったのは、このボンクラの行動形態を甘く見たことだ。軍隊で学んだ“先進的な知識”だけで村を活性化できると思っていた。しょせん清作は「七人の侍」の超人的な武士たちではない。ただの無力なインテリで、ボンクラどもを御しきれる器ではなかったのだ。田村高廣の線の細い容貌がそれを如実に示している。

 若尾文子扮するヒロインも、ボンクラな母親を説得できずにうっかり因習深い村に戻ってしまったことがそもそもの間違い。ああ、げに恐ろしきはボンクラの開き直りとゴリ押しか。ラストの清作の独白に“何もかも捨てて愛に生きる潔さ”よりも“負けてしまった人間の哀れさと未練”を感じてしまった私である。
コメント
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