元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「花のあと」

2010-04-19 06:49:36 | 映画の感想(は行)

 もう少し工夫したら良い映画になっただろう。その“工夫すべき点”とは、まず殺陣である。時代劇は初挑戦で、しかも女剣士に扮した北川景子は健闘している。おそらくは相当に訓練を積んだのであろう。構えから決めのポーズまで及第点に達している。しかし、それでも腕に覚えのある男どもを一度にねじ伏せるほどの凄みはまったく出せていない。

 これは北川の努力が足りないのではなく、撮り方に十分な配慮が成されていないからだ。特に斬り合いの場面では、なぜかカメラが固定気味に引いている。いわば立ち回りを遠巻きから眺める格好になり、これでは北川はもちろん殺陣に熟達していないと思われる他の役者達も分が悪くなる。

 剣戟のスキルにおいては彼女とほぼ同等と思われる「ICHI」での綾瀬はるかの方が、ずっと見栄えがしていた。それは「ICHI」の曽利文彦監督が闊達なカメラワークとケレン味を利かせたカット割りで、主演女優を“見せる”ことに腐心していたからだ。対して本作での中西健二の演出はまるで芸がない。ヘンなところでストイックさが前面に出てしまい、どう考えても時代劇向きの映像処理ではないのだ。

 そしてもうひとつの“工夫すべき点”とは、編集である。前半にヒロインが想いを寄せている剣士と稽古を付けるシーンがあるが、そのくだりが劇中何度もカットバックされるのには閉口した。これでは安手のテレビドラマではないか。さらに主人公が“婚約者”に頼んで悪事の張本人を探り出すあたりも、何やら回りくどい。

 極めつけは花見のシーンで流れる一青窈の主題歌に乗って、同じ構図が延々と続くラストである。いつ終わるのだろうかと、思わず時計を見てしまった(爆)。そもそも藤沢周平の原作は短編である。これらの場面を大きく刈り込めば、もっとコンパクトに小気味良く仕上がったはずだ。

 さて、それでも全国82館と小規模公開ながらそこそこ客の入りは良かったのは、出来は不十分ながら少なくとも藤沢ブランドの時代劇という体裁を取っていたために、普段は余り映画を観ない中高年層を引き付けたためだろう。北川は魅力的だし、相手役の宮尾俊太郎はイマイチながら、そのぶん“婚約者”に扮した甲本雅裕が実にイイ味を出している。悪役の市川亀治郎はさすがの貫禄だ。藤村志保のナレーションも効果的。

 映像は幾分絵葉書的ながら美しい。同じく藤沢作品の映画化で女性を主人公にした篠原哲雄監督の「山桜」には質的に及ばないが、興行的には手堅い企画だったかと思う。
コメント
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