元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「風、スローダウン」

2006-01-29 18:17:25 | 映画の感想(か行)
 91年作品。本格オートバイ・レーサーになる夢を持ちながらも、うだつの上がらないまま23歳になってしまった主人公。大親分になることを目指しているチンピラヤクザ。金回りはいいが目的もなく遊ぶだけの社長の息子。意に添わぬ結婚話にイヤ気がさして故郷を飛び出した娘。大阪を舞台に4人の若者の青春群像を描く。演出を担当したのは島田紳助で、今のところ、彼の唯一の監督作品だ(脚本も担当)。

 自らもレーシング・チームを率いていた紳助のことだから、全篇バイクの爆走シーンを散りばめたスピード感あふれる映画作りをするのではないか、という当初の予想は完全にはずれた。出て来るのは昨今のトレンディ・ドラマとは無縁のカッコ悪い連中で、煮えきらない現状にイライラしながらもそれに埋没してしまいそうな日常が延々と描かれる。

 最初にはっきり言ってしまえばこの映画は甘い。登場人物はダメな奴ばかりだが、それを他人のせいにしている。主人公は場末のバイク屋が経営するチームに長年在籍しているのだが、それに満足しているフシがあるし、社長のドラ息子は親に完全に甘えているが言うことだけはいっちょまえだ。チンピラヤクザは、ただ頭が悪い。縁談を蹴って大阪にやってきた娘は主人公を“あて馬”扱いにするだけで、その身勝手さに最後まで気が付かない。

 この4人が互いに傷をなめ合い、馴れ合っていたところまではいいが、シビアーな周囲の状況がそれを許さず、ツケを払わせられるハメになる、というのが本筋だろうが、そうなったところで彼らはヒイヒイ泣くばかりで、自覚した様子もない。

 大阪という地域性がさらにそれを強調する。大阪の街が主人公たちにとって一種のモラトリアムな空間となり、そこから出ることはない。大阪だから何をやっても許される、ということが、反対の“東京に対するコンプレックス”をも助長する。東京へ帰った娘を追って上京する主人公とチンピラの悲しき三枚目ぶり。仕事で東京と大阪を頻繁に往復している島田紳助が無意識に感じている心情なのだろうか。加えて説明過剰気味なバックに流れるBOROの歌。音楽にストーリーがよりかかり過ぎであると感じた。

 ま、いろいろと苦言を呈してしまったが、素人にしては島田監督、まともな作風だ。どこぞの作家が映画に手を出して無残な結果を残している事例とは大違いである。監修に当たっていたのが井筒和幸なのだが、たぶん井筒が監督するよりもマシな出来だと思われる(爆)。印象的だったのが連発される大阪弁のギャグで、日本映画では珍しく会話が面白い。そして関西芸人らしいキツイ冗談。特に在日ベトナム人に対する差別的なネタを堂々とやって違和感がないのは、さすが吉本興業である(意味不明 ^^;)。

 キャスティングは当時無名の若手が中心だが、納得できる仕上がりだと思った。中でも光っていたのがヒロインを演じる五十嵐いづみで、キャラクターうんぬんは別にしても、実に魅力的だった(この人もいつの間にか消えてしまったが ^^;)。

 島田監督には2作目、3作目と撮ってもらいたいと思ったが、今の彼の多忙ぶりからすればそれも無理な相談か。なお、91年の東京国際映画祭のヤングシネマ部門では日本代表として出品されもている。
コメント
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