元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「破線のマリス」

2006-01-19 06:58:02 | 映画の感想(は行)
 2000年作品。マスコミのあり方を鋭く描く野沢尚による江戸川乱歩賞受賞作の映画化。監督が凡作連発の井坂聰なので期待していなかったが、なかなか見応えのある作品だった(まあ、原作が面白いからってのもあっただろうが)。

 最大の勝因は、マスコミ(この場合はニュース番組)の欺瞞性を徹底的に容赦なく描いた点だ。黒木瞳扮するベテラン編集担当者は“ニュースに客観性は必要ない。大事なのはニュースの送り手である我々の主観である”と豪語する確信犯で、フィルムを勝手にカット&ペーストして、自分が独断で考える“事件の真相”とやらを視聴者に強く印象づけるようなマネをしても恥とも思わない。たまたま実際の事件の顛末が自分の“報道内容”と一致したりすると“社会の木鐸ここにあり”という具合に大威張りだ。もちろん、取材対象への責任などまったく考えない。

 そんな彼女が郵政省と新規放送会社との癒着に関するニセ隠しビデオを掴まされ、大して裏も取らずにホイホイと放映してしまったところ、結果として郵政官僚の一人(陣内孝則)を破滅させてしまう。このあたりの展開はマジでコワい。マスコミが勝手に罪をデッチあげ、濡れ衣だったことが判明しても全く反省せずに開き直る。もとよりマスコミなど“嘘つきの集団”と考えて間違いないが(例:朝日新聞などの反日キャンペーン等)、映画はこれが日常的・庶民レベルで起こりうることをヴィヴィッドに描き出し、観る者を戦慄させずにはおかない。


 井坂聰の演出は破綻のない正攻法のものだが、第一作「[Focus]」でも明らかなように、この作家はこういうネタが好きなのだろう。今回は製作も担当した黒木瞳は彼女にしては珍しい(失礼 ^^;)好演で、悪役ぶりを強くアピールする。

 ただし、同じようなテーマを扱った米映画「スクープ/悪意の不在」を上回る出来を示しながら「地下鉄連続レイプ/愛人狩り」のアナーキーさに及ばなかったのは、終盤の脚本の詰めがいまひとつ甘いこと、そして主要キャスティングに不満があることだ。テレビ局側の人物がいかにもクサそうなのには目をつぶるとしても、相手役の陣内孝則が完全なミスキャスト。どう見たって“人の良いアンちゃん”であり、こいつが官僚だなんて“冗談じゃない”である(笑)。
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「ポネット」

2006-01-19 06:50:09 | 映画の感想(は行)
 (原題:PONETTE)交通事故で母を失った4歳のポネット(ヴィクトワール・ティヴィソル)。死を理解できない彼女は、預けられた従兄弟たちの家でもひたすら母親の帰りを待ち続ける。そんな彼女に苛立った父親はポネットを寄宿学校に預けてしまうが・・・・。「ピストルと少年」「愛されすぎて」などのフランスのジャック・ドワイヨン監督作品で、ティヴィソルはこの映画で96年のヴェネチア映画祭において史上最年少の主演女優賞を得ている。

 公開当時はティヴィソルのアップをとらえた可愛いポスターとチラシによって観客を集めた映画だが、私は面白いとは思わなかった。理由は映画全体が子供におもねているからだ。そして同時に大人の勝手な価値観を刷り込んでいるからだ。

 ポネットの父親と叔母を除いて大人はほとんど登場しない(しかもそのシーンはかなり短い)。大部分がヒロインと従兄弟たちと、寄宿舎での同級生(?)らのからみで展開される。フランスの幼児たちの会話は実際どうなのか知らないが、“人間の死と神の問題”とかいった、えらくまた神学的・宗教的な内容があどけない表情からポンポン出てくるあたりに面食らってしまった。そして、子供たちの世界を序々に“現世の縮図”みたいに見せていく作劇は相当あざといと思う。

 第一、子供だけの話にしているところが気に入らない。大人とのかかわりによって、子供はその“世界観”を構築したり壊されたりするのだ。これでは子供の勝手な思い込みを“まあまあ、子供のことだからね”というエクスキューズでもって差し出すことを計算ずくでやっていると思われてもしょうがない。正直ウンザリした。同じ子供をネタにした作品でも、イラン映画の一連の秀作群とは大違いだ。

 終盤近くで母親が幽霊で出てきて、もっもらしいセリフを吐く場面なんて何をか言わんだ。死者に簡単に出てきてもらっては困るのだ。そんなことをする前に、現在生きている大人たちとの関係によってヒロインはアイデンティティを確立していくというのが本筋ではないのか。

 作者の姿勢にウサン臭いものを感じる困った映画だと思う。ヴェネチア国際映画祭でティヴィソルの主演女優賞受賞に強硬に反対した審査員のアンジェリカ・ヒューストンの意見はまったく正しい。
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