気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ふるさとは赤  三原由起子 

2013-06-04 19:19:12 | つれづれ
南国の香り点してたちまちに楽園になる2LDK

結婚の重みと厚み「ゼクシィ」と「けっこんぴあ」を持ち上げてみる

iPad片手に震度を探る人の肩越しに見るふるさとは 赤

いま声をあげねばならん ふるさとを失うわれの生きがいとして

うつくしまふくしま唱えて震災の前に戻れる呪文があれば

果てしない除染作業に人生を捧げたくはない若者われら

除染という仕事を与え福島の人らを集めて二度傷つける

海沿いの広すぎる空広すぎる灰色の土地 それでも故郷

偽りの言葉ならべる<つながろう、絆、がんばろう、元気です>

知らぬなら無いこととして過ごしおりゆゆしき日々の続く日本(にっぽん)

あきらめるための一時帰宅だと友は笑顔を作ってみせる

二年経て浪江の街を散歩するGoogleストリートビューを駆使して

(三原由起子 ふるさとは赤 本阿弥書店 ホンアミレーベル)

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「日月」所属の三原由起子の第一歌集を読む。
三原さんは、福島県双葉郡浪江町に生まれる。この歌集は、十六歳から三十三歳までの作品をまとめたもの。

前半の歌は、若々しい恋から結婚に至る相聞が中心で、素直に生き生きと詠われている。後半、東日本大震災と原発事故で、故郷の状況は一変する。
六首目、七首目に出て来る除染作業のことは、現地の人でないと知り得ないこと。メディアの情報だけではわからない心情が詠われていて、実感がこもる。

あとがきが書かれた4月1日現在、浪江町は区域再編により、避難解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域に分断されているという。彼女の実家は、避難解除準備区域にあたり、昼間の立ち入りが緩和されるだけで、十五歳未満と妊婦の立ち入りは不可。宿泊もできない。その意味と今後を、歌集を読んだ人と一緒に考えていけたらと願っている、とあとがきは結ばれている。

先日、短歌人関西歌会の研究会で、大口玲子の歌について発表をする機会があったが、みな口が重くなってしまった。当事者でない者が軽々しくモノを言えない雰囲気がある。しかし、震災も原発事故のことも、決して忘れてはならないし、いまも続いている事件なのだ。

この歌集を読んで、作者が当事者として「ふるさとを失う」という歌を読む衝撃は大きい。歌集の最後の一首は、「二年経て・・・」の歌だ。無力感という言葉で片付けるわけには行かない思いが伝わる。