気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2013-06-17 19:26:01 | 朝日歌壇
足たたば雪くはましを子規の夢三浦雄一郎エヴェレストに立つ
(名古屋市 諏訪兼位)

「こ」と打てば「ごめんね」と出る私の携帯電話しずかに閉じる
(加賀市 敷田八千代)

「元気かい」「全然さ」テレパシーにて待合室のポトスと話す
(倉敷市 滝口泰隆)

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一首目。正岡子規の『竹乃里歌』の「足立たば」七首の中に「足立たば北インヂヤのヒマラヤのエヴエレストなる雪を食はまし」という歌があり、この作品はこれをふまえて作られたものだろう。現実にエヴェレストに登頂した三浦雄一郎氏の快挙を、病床の子規と重ねたところが面白い。エヴェレスト登頂は、登山をする人の憧れだ。夢を叶えるには、本人の強い意志と体力、財力、周りの協力が不可欠。結核で三十四歳で亡くなった子規と、八十歳にしてエヴェレスト登頂した三浦雄一郎。時代が違うとはいえ、人間の運命というものを考えさせられる。
二首目。携帯電話の予測変換は、ありがたいのかどうか。携帯電話のメモ機能で、短歌を作ろうとすると、予測変換が邪魔になると感じる。作者は、気が弱いのか「ごめんね」と打つことが多く、それが強く携帯電話に記憶されてしまった。そんな自分を客観視している視点がよい。
三首目。定期的に通う病院の待合室の光景。置かれているポトスとも親しくなってしまう。この作者も、控えめな性格の人なのだろう。テレパシーという言葉を久しぶりに見た気がした。