気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2012-05-14 18:41:48 | 朝日歌壇
人もなき町の桜のトンネルは帰れぬ人の魂(たま)遊ぶ処(とこ)
(福島市 青木崇郎)

ひとときを煌めく中洲の水溜り子鴨が春陽を泥に混ぜおり
(蓮田市 青木伸司)

しゃぼん玉の中にさくらは咲きみちて古墳の風にふうわり浮かぶ
(蓮田市 斎藤哲哉)

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一首目。高野公彦氏の評を読むと、原発事故で無人となった福島県富岡町夜の森の桜並木のこととある。帰れぬ人には、亡くなった人も、生きていても放射能の影響を避けて帰れない人もいるだろう。「魂遊ぶ」という表現が切なさをよく伝えている。
二首目。中洲で遊ぶ子鴨の様子を述べただけの写生の歌で、好感が持てる。漢字がやや多い気もするけれど。
三首目。桜の咲く中でのしゃぼん玉遊びだろうが、それでは平凡。しゃぼん玉の中に桜が咲きみちるとしたところに、詩が生まれた。古墳が近くにあるのだろうか。古墳のことばで、より引き締まった歌となった。

季節  斎藤典子歌集

2012-05-14 01:38:50 | つれづれ
そのうちの一人は息子紺色のスーツの群れのなかに見失ふ

掛け軸のなかより滝の流れ落ちたちまち脛まで涼は来たれり

母と子の影とどまりてバス停の秋の時間のくきやかにあり

母と子はかつてのわれと息子なれば奪はれやすし秋の時間は

妄想癖すこしあるのをみてとればこのひともまた仲間とおもひぬ

生徒らを「はやくはやく」と追ひたてて羊飼ひかと言はれてをりぬ

ひとつづつわれの居場所を消しゆきて春風駘蕩退きゆかむ

夏山より帰り来たりし息子の背おほきなる雲ころごりてゐる

パソコンのたちあがる音に温かみあると思ふまで秋深みゆく

光沢紙濡るるばかりに出できたりきのふ別れしひとびとの顔

(斎藤典子 季節 砂子屋書房)

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短歌人関西歌会でお世話になっている斎藤典子さんの第四歌集を読む。
あとがきによれば、2011年3月に教職を退かれている。三十数年続けてこられたお仕事を辞められることには寂しさもあり、感慨無量であることは想像できる。
また、息子さんの歌にあたたかい愛情が感じられ、同じように離れて暮らす息子を持つ身として共感するところが多い。