リハビリの病棟飾るちぎり絵のうさぎのどこか母も貼りけむ
(山形市 渋間悦子)
夜勤あけの靄の県道帰るとき電信柱の数だけ淋しい
(静岡市 堀田孝)
コーヒーの焙煎を待つ十五分ロシア語講座で旅をしている
(逗子市 久家雅子)
******************************
一首目。病院では患者さんのレクリエーションとして、ちぎり絵の制作などを行うことがある。私の義母は、人付き合いを好まない性分でこういうレクリエーションは苦手だったが、看護師さんに勧められて参加していた。作者のお母さまはその後快癒されたのかどうかはわからないが、ちぎり絵のうさぎにお母さまの手仕事が残っていることに、特別の感慨を覚えて歌にされた。結句の貼りけむの「けむ」が過去の事実を推量する助動詞なので、いまのことはわからない。「ちぎり絵のうさぎ」の具体が出ているのがよいと思う。
二首目。短歌を作るとき、「淋しい」「嬉しい」などの感情を表す言葉は使うなとよく言われるが、この歌はそれを思い切って使って成功した例。「電信柱の数だけ」の四句目がよかったからだろう。
三首目。いまは「待つ」ことが少なくなった。「コーヒーの焙煎を待つ十五分」なら待つのに長くもなく短くもなく適当な時間。それはロシア語講座の時間とも合致した。結句の「旅をしている」に、遠くを見る目、ロシアへのあこがれのような雰囲気が出ている。
いまさらながら、待つことや退屈の大切さを思う。
(山形市 渋間悦子)
夜勤あけの靄の県道帰るとき電信柱の数だけ淋しい
(静岡市 堀田孝)
コーヒーの焙煎を待つ十五分ロシア語講座で旅をしている
(逗子市 久家雅子)
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一首目。病院では患者さんのレクリエーションとして、ちぎり絵の制作などを行うことがある。私の義母は、人付き合いを好まない性分でこういうレクリエーションは苦手だったが、看護師さんに勧められて参加していた。作者のお母さまはその後快癒されたのかどうかはわからないが、ちぎり絵のうさぎにお母さまの手仕事が残っていることに、特別の感慨を覚えて歌にされた。結句の貼りけむの「けむ」が過去の事実を推量する助動詞なので、いまのことはわからない。「ちぎり絵のうさぎ」の具体が出ているのがよいと思う。
二首目。短歌を作るとき、「淋しい」「嬉しい」などの感情を表す言葉は使うなとよく言われるが、この歌はそれを思い切って使って成功した例。「電信柱の数だけ」の四句目がよかったからだろう。
三首目。いまは「待つ」ことが少なくなった。「コーヒーの焙煎を待つ十五分」なら待つのに長くもなく短くもなく適当な時間。それはロシア語講座の時間とも合致した。結句の「旅をしている」に、遠くを見る目、ロシアへのあこがれのような雰囲気が出ている。
いまさらながら、待つことや退屈の大切さを思う。