気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ゆかりのいろの  取違克子  つづき  

2009-12-16 01:14:46 | つれづれ
春ふけの真昼の庭に土鳩きてひよどりのきて白猫(はくべう)過ぐる

春深し水琴窟ゆ漏れ出づる音は亡き父の爪を切る音

こゑいまだことばとならぬみどりごの昨日今日明日こがねしろがね

はればれとみどりごは泣き夕顔の花つぎつぎとひらき初めたり

いにしへゆみづいろのゆめこぼしたる高麗青磁石榴形水瓶

校庭にたらり垂れゐるふらここに春がひそかに腰かけてをり

朝青龍負けし土俵にたちまちに古代むらさきの座布団とべり

柿色の夕つ日溜る薬研坂猫がしんなり背を伸ばしゐる

嘆くまじ母の形見のコート着て初冬のけやき通りをゆくも

(取違克子 ゆかりのいろの 六花書林)

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題名を『ゆかりのいろの』とするだけあって、この歌集には色彩の歌が多い。あとがきにもあるように、ゆかりのいろ(縁の色)は紫色の別名でもあり、王朝の歌に物語に、また古くは万葉集の中にもしばしば歌われた色。
平成八年から平成二十年までの作品が収められているので、娘さんの留学、結婚、出産の歌があり、お母様の挽歌がある。どの歌も、その状況にふさわしい彩(いろどり)で飾られている。
三首目。みどりごに対して、こがねしろがねを置いた機知の歌。万葉集の「銀(しろがね)も黄金(くがね)も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも」を思い出させる。
七首目。朝青龍という外国出身の力士の対戦のあと投げられた座布団の古代むらさき。この色が効いている。
八首目。薬研坂という地名がいい。猫はどこにいても絵になるのだが・・・。